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第一部 第四章「趣舎万殊」
第43話 誘拐
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使われなくなってから長い年月が経過している廃墟の中、誰かがそこに居るのか、廃墟の廊下に2人の影がボンヤリと浮かび上がる。
「よく来ましたね」
ローブを深く被って、顔を隠した男がそう言うと、部屋に入って来た少年は途端に顔を歪めた。
「……やがれ」
「はい? 何ですか?」
「──早く妹を返しやがれ」
今にも殴りかかろうとする少年を嘲笑うかのように、男はフワリと浮き上がり、少年の拳を楽々避ける。
「テメェッ!」
「おや、いいのですか? この子がどうなっても知りませんよ?」
「──ッ!?」
男は何処からか檻を取り出しては、少年の視界に入るようにプカプカとその檻を浮かせて見せる。
「し、汐恩! 無事か! 大丈夫か! 汐恩っ!」
檻の中には、まだ小学生なのだろう。
空色のランドセルを背負った少女は檻の中で格子に体重を預けるようにして眠っている。
「眠っているだけですよ。命に別状はありません」
「うるせぇ! 汐恩を……妹を檻から出しやがれ‼︎」
少年は再び男に殴りかかるが、今度はローブの中から姿を見せた手によって掴まれる。
「──ッ!」
「甘いですね。その程度の動きでは、私に傷一つ付けられませんよ?」
「クソッ! 何が目的だ。何でこんな事を……」
「目的……ですか。そうですね。実は貴方にはやって貰いたい事があるのです」
「何だよ」
少年がそう言うと、フードの奥から見える男の口角が上がる。
まるで、その言葉を待っていたかのように……。
「そうですね。貴方には……」
・・・
side:玄野零
「終わったー!」
両腕を伸ばし、背もたれに体重を預ける。
あ~~。やっと片方終わった~。
これで、少しは楽だ~~。
思い返せば、ここ数日の1日の流れはエグかった。
中間テストと決闘の日程が近いからって理由で、朝起きて学校に行けば、テスト勉強とテスト前課題。
放課後は夕方まで結菜と図書室で勉強会。
家に帰れば、ルナとの特訓。
特訓後に夕飯食って、寝る前にルナの魔術概論があるという地獄な日々。
全身筋肉痛に苛まれながらの勉強は辛かったけど、それも今日でお終い。
今日からは決闘に集中……したくねぇなぁ。
「はぁ~。帰りたくない」
現実逃避をしたく、机に顔を沈めていると、突然、大きな人影が俺の頭上を覆った。
「……零」
「あ、隼? どうしたんだ?」
顔を上げた先には酷くの顔色の悪い隼が立っており、何処か様子がおかしい。
コイツが話しかけて来たって事は、中間テストが悪かったから、俺の感じを聞いて安心しようって感じとかか?
「……零、ちょっと。いいか?」
「どうしたんだよ。隼。テストが良くなかったとかか?」
「いや……ハハッ、まあ、そんなところだ。とりあえず、零。立ちション付き合えよ」
明らかに隼の様子がおかしい。
顔色は悪いし。普段の隼が言わないセリフを言っている。
……普段の隼なら、立ちションに誘うとかしないしな。
「なあ、隼。具合が悪いなら、一緒に保健室に付き合うぞ?」
「あ、あぁ、そうだな。実は朝から少し気分が悪かったんだ。頼むよ。零」
そう頼んでくる隼の顔は更に青ざめており、額からは玉のような汗が滲み出ている。
具合……悪そうだな。
早く送り届けるか。
チラッとアイリスの方を見ると、彼女は今の一部始終を見ていたのか、軽く頷いてくる。
一応、護衛(仮)に連絡は取ったから、大丈夫だな。
「じゃあ、隼。行こうぜ」
「あ、あぁ。そうだな」
・・・
「そう言えば……」
保健室まであと少しといった所まで差し掛かった辺りで、隣を歩く隼が突然、話を切り出して来た。
「どうした? 隼。吐きそうならトイレに行ってくれよ」
「いや、吐きそうとかじゃないんだ。ただ、零。お前って……アイリスさんと何かあったりするのか?」
「──は? 何でアリ……アイリスさんと?」
「いや、俺の勘違いなら、いいんだ。ただ気になっただけだから」
「何だよ。それ」
鎌をかけられたのか?
いや、分からん。
隼の顔をチラリと見るが、先程よりも顔色が悪化しているくらいで、他は何も分からない。
「なあ、零」
「今度は何だよ」
「俺さ。俺さ……」
何故か急に泣き出す隼に意味が分からなくなる。
何で、涙を?
どう言う事だ?
「やっぱ、お前の事好きだわ」
青ざめた顔で涙を流しながら、笑みを浮かべる隼。
俺には、コイツの言葉の意味がよく分からなかった。でも……。次の瞬間──。
ガラスの割れる様な音と共に、景色にヒビが入っていき、ヒビは隼を覆い隠すように広がっていく。
「──ッ!」
この魔力はっ! 敵⁉︎
何でこのタイミングで?
いや、それよりも……。
「──隼!」
必死に手を伸ばして隼の手を掴み取り、そして、今ある力を振り絞ってヒビの外へと投げる。
「零……。零ッ!!」
「隼、アイリスさんに……頼む」
まるで、食べられているかのように、徐々に空間が塞がっていく中、俺は……目の前で絶望感に打ちひしがれた表情の隼に対して、今出来る精一杯の笑みを浮かべるのであった。
「よく来ましたね」
ローブを深く被って、顔を隠した男がそう言うと、部屋に入って来た少年は途端に顔を歪めた。
「……やがれ」
「はい? 何ですか?」
「──早く妹を返しやがれ」
今にも殴りかかろうとする少年を嘲笑うかのように、男はフワリと浮き上がり、少年の拳を楽々避ける。
「テメェッ!」
「おや、いいのですか? この子がどうなっても知りませんよ?」
「──ッ!?」
男は何処からか檻を取り出しては、少年の視界に入るようにプカプカとその檻を浮かせて見せる。
「し、汐恩! 無事か! 大丈夫か! 汐恩っ!」
檻の中には、まだ小学生なのだろう。
空色のランドセルを背負った少女は檻の中で格子に体重を預けるようにして眠っている。
「眠っているだけですよ。命に別状はありません」
「うるせぇ! 汐恩を……妹を檻から出しやがれ‼︎」
少年は再び男に殴りかかるが、今度はローブの中から姿を見せた手によって掴まれる。
「──ッ!」
「甘いですね。その程度の動きでは、私に傷一つ付けられませんよ?」
「クソッ! 何が目的だ。何でこんな事を……」
「目的……ですか。そうですね。実は貴方にはやって貰いたい事があるのです」
「何だよ」
少年がそう言うと、フードの奥から見える男の口角が上がる。
まるで、その言葉を待っていたかのように……。
「そうですね。貴方には……」
・・・
side:玄野零
「終わったー!」
両腕を伸ばし、背もたれに体重を預ける。
あ~~。やっと片方終わった~。
これで、少しは楽だ~~。
思い返せば、ここ数日の1日の流れはエグかった。
中間テストと決闘の日程が近いからって理由で、朝起きて学校に行けば、テスト勉強とテスト前課題。
放課後は夕方まで結菜と図書室で勉強会。
家に帰れば、ルナとの特訓。
特訓後に夕飯食って、寝る前にルナの魔術概論があるという地獄な日々。
全身筋肉痛に苛まれながらの勉強は辛かったけど、それも今日でお終い。
今日からは決闘に集中……したくねぇなぁ。
「はぁ~。帰りたくない」
現実逃避をしたく、机に顔を沈めていると、突然、大きな人影が俺の頭上を覆った。
「……零」
「あ、隼? どうしたんだ?」
顔を上げた先には酷くの顔色の悪い隼が立っており、何処か様子がおかしい。
コイツが話しかけて来たって事は、中間テストが悪かったから、俺の感じを聞いて安心しようって感じとかか?
「……零、ちょっと。いいか?」
「どうしたんだよ。隼。テストが良くなかったとかか?」
「いや……ハハッ、まあ、そんなところだ。とりあえず、零。立ちション付き合えよ」
明らかに隼の様子がおかしい。
顔色は悪いし。普段の隼が言わないセリフを言っている。
……普段の隼なら、立ちションに誘うとかしないしな。
「なあ、隼。具合が悪いなら、一緒に保健室に付き合うぞ?」
「あ、あぁ、そうだな。実は朝から少し気分が悪かったんだ。頼むよ。零」
そう頼んでくる隼の顔は更に青ざめており、額からは玉のような汗が滲み出ている。
具合……悪そうだな。
早く送り届けるか。
チラッとアイリスの方を見ると、彼女は今の一部始終を見ていたのか、軽く頷いてくる。
一応、護衛(仮)に連絡は取ったから、大丈夫だな。
「じゃあ、隼。行こうぜ」
「あ、あぁ。そうだな」
・・・
「そう言えば……」
保健室まであと少しといった所まで差し掛かった辺りで、隣を歩く隼が突然、話を切り出して来た。
「どうした? 隼。吐きそうならトイレに行ってくれよ」
「いや、吐きそうとかじゃないんだ。ただ、零。お前って……アイリスさんと何かあったりするのか?」
「──は? 何でアリ……アイリスさんと?」
「いや、俺の勘違いなら、いいんだ。ただ気になっただけだから」
「何だよ。それ」
鎌をかけられたのか?
いや、分からん。
隼の顔をチラリと見るが、先程よりも顔色が悪化しているくらいで、他は何も分からない。
「なあ、零」
「今度は何だよ」
「俺さ。俺さ……」
何故か急に泣き出す隼に意味が分からなくなる。
何で、涙を?
どう言う事だ?
「やっぱ、お前の事好きだわ」
青ざめた顔で涙を流しながら、笑みを浮かべる隼。
俺には、コイツの言葉の意味がよく分からなかった。でも……。次の瞬間──。
ガラスの割れる様な音と共に、景色にヒビが入っていき、ヒビは隼を覆い隠すように広がっていく。
「──ッ!」
この魔力はっ! 敵⁉︎
何でこのタイミングで?
いや、それよりも……。
「──隼!」
必死に手を伸ばして隼の手を掴み取り、そして、今ある力を振り絞ってヒビの外へと投げる。
「零……。零ッ!!」
「隼、アイリスさんに……頼む」
まるで、食べられているかのように、徐々に空間が塞がっていく中、俺は……目の前で絶望感に打ちひしがれた表情の隼に対して、今出来る精一杯の笑みを浮かべるのであった。
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