僕の神様

なるみや

文字の大きさ
2 / 2

貴方

しおりを挟む
その人はへレーネという名前だった。
名前の通り美しかった。
王族特有の桃色の髪は真っ白な肌によく似合っていた。
瞳の色は曇り空のような色をしていた。
本当に人間?
森の精霊か何かなんじゃないのか。
そう疑ってしまうくらいには人間離れした美しさだった。

「君の名前は?」

「ノアです。あのどこに居た方がいいとかありますか」

「ノアは優しいね。じゃあ、今、俺が座っているところに座って」

視線が合わないことに安心する。
きっと僕の姿を見たら、呪われた者として扱われる。
ヘレーネさんは木の幹の横に座る。
人と喋ったのは何年ぶりだろう。
もう、10年以上人と話していない。
業務的なことも呪いがうつると手紙が離れの前に置かれるだけだった。
7歳の時に王族が受けるべき教育を終わらせた。
それから、離れに幽閉され二度と出ることはなかった。

「ノアはいくつ?待って、当ててみる。声はね、15歳から20代くらい。手、貸してくれる?」

「手ですか?」

「嫌だったらいいんだよ。でも、ちょっと情報が足りないから」

人と何年も話していない。
つまり、触れ合ったのも何年も前だ。
こんな美しい人と話しているだけでも、そわそわしているのに手だなんて。
でも、断れない。
嫌じゃないし、いやむしろ......気色悪いな僕。
余計なことを考えないようにと自分の心に念を押して差し伸べられた手に手を乗せる。

「ありがとう」

可愛いらしい笑顔を僕に向けて欲しくて、顔が真正面にくる位置に座ろうとする。
ヘレーネさんは移動する手に少し首を傾げつつも手の感触を探っている。
今、手を握りしめてみたらどんな反応をするのだろう。
出来る訳無いのに、煩悩が溢れてくる。

「うーん。17歳かな?」

「...正解です。すごいです」

手と声でこんな風に当てられるなんて思わなかった。
普通、外見で当てるのも難しいのに。

「247年生きてるからね」

「え?」

にひゃく...、247歳!?
帝国の平均寿命は70代だ。
今は薄くなってしまったエルフの血が流れている王族でさえ80代なのに。
それに綺麗すぎて年齢なんて概念が消え去っていた。10代後半から30代まで全て当てはまりそうなのだ。
20代と言うには、艶やかな色気。
30代というにはまだあどけなさの残る表情。
人間離れしているとは思っていたけど、本当に人間じゃないのかもしれない。

「びっくりした?俺も200後半くらいなのに自分の顔に皺一個もできてないの可笑しいとは思うんだけどさ」

自分の顔を触りながら楽しそうに話す。
本当に200歳なのかと思うほど幼い仕草をしている。

「本当ですか?」

「本当だよ。ヘレーネって名前なんて今は使われてないんじゃないかな?聞いたことある?」

別邸に閉じこもっていた僕には名前の流行りなんて知らない。
ヘレーネさんはそもそも性別はどちらなんだろう。
ヘレーネは神聖語で絶世の美女という意味だ。
名前通りの美しさは中性的だ。
一人称は、俺だけど声は男性とも女性とも言える。
どっちなんだろう。

「分からないです。箱入りなんで」

「そっかそっかぁ。ヘレーネの意味知ってる?」

「絶世の美女ですよね」

「知ってるんだ。君、貴族だろう?神聖語を知ってる平民はいないからね」

「ヘレーネさんも貴族でしょう。神聖語を名前につけていいのは貴族のみです」

「そうなの?知らなかった。女の人の名前っていうのは知っていたんだけれども」

「僕が出会った中ヘレーネという名前が貴方以上に似合う人はいません」

婚約者の名前はヘレーネだった。
でも、僕の見た目に絶望して失踪してしまった。
彼女はもちろん彼女の両親にも申し訳ない。

「そう...?ヘレーネって名前の人が他にもいるんだ。どんな人?」

「...僕の元婚約者です」

「...振られたかぁ。大丈夫だよ。ノアは優しいし、しかも貴族でしょう?すぐに見つかるよ」

そうか。この人は僕の容姿が見えないんだ。見た目で判断されないことは初めてでどうしたらいいのか分からない。
もし、素直に見た目のことを言ったらどうなるのだろう。拒絶されるのだろうか。だったら、あまり仲を深めない方がいい。
見た目で拒絶されるのには慣れた。
早く話して仕舞えば深く傷つくことはないのだから。

「実は僕の目はオッドアイなんです」

「...だから?えっと、ダメなの?それは」

「ヘレーネさんは知らないんですね。オッドアイは呪われた瞳と言われているんです」

「呪い...?目の色が違うだけで?」

「はい。本来なら産まれた瞬間殺されてしまうんです。ですが、まあ、たまたま死ねなかったというか。それでずっと今まで家にいたんです」

「うーん。俺には見えないからなぁ...。何も言えないけど、俺からしたら君はただいい子だよ。目の見えない俺のために色々考えている。それをしてくれる人は中々いないからさ。面倒なことと向き合ってる真面目ないい子!だから、結婚も出来るよ。きっと」

貴方はどこまで綺麗なんだろう。
まるで天使だ。
本当に少し慰められただけ。
でも、本当の僕を初めて見てくれた。


「ありがとうございます。ヘレーネさん。また会いに来たいです。もっと、貴方を知りたい」

そして僕をもっと知って欲しい
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

処理中です...