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07 泡沫の月夜
その6
しおりを挟むエントランスホールで待っていた。
男の密ごとが終わるのを待っていたのだ。
部屋へ入ったばかりだから時間はまだまだあるだろうとパソコンのキーボードを叩いて報告書をまとめていると、目の端にロビーを走り抜ける『I67(アイ・ロク・ナナ)』の姿が映った。
見間違いだと思いたかったが振り向きながら見えた建物から出て行く後ろ姿にはあのブルーのスカートが揺れていた。
慌ててパソコンの画面を閉じて後を追った。
見失ってしまう不安に急かされながら外へ出ると、鋭く光る薄っぺらな白い三日月の下でブルーのスカートだけが色を持っているようだった。
ほの暗い夜空。
ブルーのスカート。
三日月へ差し伸ばす『I67』のひたむきな右手。
無意識のうちに自分の右手で自分の左手首の内側を覆った。
ギューッと力を入れる右手の下にあるのは、手首にしっかりと巻かれた腕時計の太いベルト。
どんなに傷を隠していても、こんな月夜には揺り醒まされてしまうのだろうか?
男の隣で柔らかい光に照らされたブルーのスカートを見た時から、心がざわめき始めたのを感じていた。
だから冷静に観察を続けるために、あのブルーのスカートと私の紅い粒が滴り落ちて線を描いていったスカートはまったく別のものだと心の中でしつこいほど幾度も確認したのだ。
けれど「ご馳走さまでした」と微笑みながら首を右へ少しかしげる姿を見た時に、忘れたはずの『君のその小首をかしげる仕草が可愛いね』とかつて囁かれた低く落ち着いたあの人の声が耳の奥で甦り浮かんでは沈んで沈んでは浮かびを繰り返し、左手首が疼き始めた。
隣に誰もいないブルーのスカートが風に揺れるたびに、胸の鼓動がどうしようもなく激しく速まって脳までも刺激してきた。
『I67』の三日月へ向けて高く伸ばした右手が鋭く光る薄っぺらい刃へ届いて掴むように見えた時、自制が効かずに「どうしたいの?」と口が勝手に動いていた。
止めたかったのだ。
もう冷たい刃で傷ができないようにと咄嗟に掴んでしまった『I67』の左手首は、時計の太いベルトの巻かれた私の左手首でないのだからツルリと綺麗なのに。
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