135 / 137
四万田さんの代理人?
3
しおりを挟む
春の緊急事態宣言下で多くのミニシアターは自粛要請の対象から外れたが、事実上の自主休業を余儀なくされた。営業再開後は定員を半分に減らして一席おきとし、予約制や営業時間短縮を組み合わせる形をとっている。今回の上映会もそれに倣った。
上映会当日、私は受付の検温係を任された。
ガン式の体温計で来場者の体温を計測するだけなのだが、マスクとフェイスシールドを装着してこちら側にいるだけで一気に医療系の専門家臭が増さない?お縄にならない程度に詐欺してるみたいでビビる(私だけ?)
不特定多数のお客様相手にコミュニケーションを取らなければならない受付回りの仕事はできれば避けたかったが、会場係(誘導や進行)や機材関係は当然無理なので、引き受けられそうな仕事がこれしかなかった。
蓋を開けてみると額で検温するために帽子や前髪をどけてもらうなど、多少はコミュニケーションが要るものの、かえってお客さんの方が計られ慣れていたりして全体的に楽だった。
むしろもぎり係の方が半券裏の緊急連絡先(万一集団感染が発生した時用)の記入漏れをチェックしたり、記入場所に誘導したり、高齢などで目や手が覚束ない人の代筆をしたりと臨機応変の作業量が多い。単純作業で楽に思えるからとうっかりそっちに手を上げなくてよかった。
ただこちらも、体温が七度五分以上ある人やマスクを着用していない人は入場禁止になるのでその旨を話してお帰りいただかなければならない。だが、世の中には良くも悪くも色々な人がいる。
そもそも私ごときが話をして素直に帰ってくれるような人なら、マスクをせずに人の集まる場所には来ないしーーこの時の日本人は外出の時には一律マスク姿で、着けていない人は本当に悪目立ちしたーー熱っぽいと思った時点で家から出ないだろう。
だが普段から平熱が高いとか体質的にマスクが合わないとか、世の中にはやはり世の中には色々な人がいる。多数派に押し込められて肩身の狭い思いをしている少数派の主張に耳を傾けこそすれ、封殺する側には決してなりたくないのだが、「ただのクレームやわがまま」とやはり区別しなきゃいけないものなのか?
その旨を沙由ちゃんに言ったら「医療系のコミュ強な学生ボランティアさん、相棒につけるから大丈夫だよ」と言ってくれて、その子も「何かあったら任せてください」と頼もしく胸を叩いてくれた。
それなら安心なのだが……果たしてこれでいいのか30代。
「だってうちの羽心ちゃんが映画に写ってるのよ。応援しなきゃ」
と、親バカ全開のお母さんお父さん、心愛まで上映会のために早目に帰省してくれた。
エキストラで知り合った人たちも家族や友人を連れて大勢やって来てくれたーーというのは広田さんや沙由ちゃんに後から聞いた話だ。お互いマスク姿だったのでほとんどスルーしてしまったが、何人かは向こうから遠慮がちに声を掛けてくれた。
石崎さんはボランティアとして東京から駆けつけてくれたし、HATOKOさんや田部井さんも観に来てくれた。お互い一言挨拶するくらいしかできなかったのだが、HATOKOさんが元気そうでよかったーーしかし美人というのはマスクをしていても美人なんだな。
福引の時にトレードで招待券をゲットしたマダムも見かけた。女友達と一緒でーーえ、夫さんとの思い出の映画じゃないの?
まあ歳を重ねると本人達にしかわからない色々な事があるのかもしれない。
幸いなことに、受付で門前払いしなければならないような人もいず、満員御礼(前列と一席空けだが)の上映会が始まった。
上映会実行委員長の行成さんに続き翔先輩ーー真駒内翔監督が急拵えの舞台に登壇した。会場一杯に熱い拍手が起こり、監督はその前から感無量の涙目に見えた。
「……ここの地域の皆さんに色々協力いただいて映画が完成したんですけどおぉ、ご存知の通り新型感染症の流行で試写会も公開も延期になってしまって……っ……」
早くもつられてウルッとしてしまう私。
「映画製作というのはぁ、本当にぃ、自転車操業なものですから……ハァァ、……イ、インターネット公開や皆さんからの寄付で……どうにか、どうにか持ちこたえていましてっ……。映画に欠かせなかったこの昭和電気館でぇ、無理だと思っていた上映会までえぇ、開いていただいて……、皆さんのっ……皆さんの温かい反応も見られて……うあああああん!」
ついに真駒内監督は、ネット炎上の号泣記者会見ばりに声をあげて泣き出してしまった。
私も他のみんなと一緒に大きな拍手で励ました。「頑張れ!」「町の宝!」なんて掛け声も飛ぶ。
司会進行で舞台の端にいた沙由ちゃんは一人、顔を押さえて小刻みに震えていたーー一見、もらい泣きを堪えているようにも見えるが、あれは何かがツボに入ってしまって爆笑を必死でこらえているに違いない。
上映会当日、私は受付の検温係を任された。
ガン式の体温計で来場者の体温を計測するだけなのだが、マスクとフェイスシールドを装着してこちら側にいるだけで一気に医療系の専門家臭が増さない?お縄にならない程度に詐欺してるみたいでビビる(私だけ?)
不特定多数のお客様相手にコミュニケーションを取らなければならない受付回りの仕事はできれば避けたかったが、会場係(誘導や進行)や機材関係は当然無理なので、引き受けられそうな仕事がこれしかなかった。
蓋を開けてみると額で検温するために帽子や前髪をどけてもらうなど、多少はコミュニケーションが要るものの、かえってお客さんの方が計られ慣れていたりして全体的に楽だった。
むしろもぎり係の方が半券裏の緊急連絡先(万一集団感染が発生した時用)の記入漏れをチェックしたり、記入場所に誘導したり、高齢などで目や手が覚束ない人の代筆をしたりと臨機応変の作業量が多い。単純作業で楽に思えるからとうっかりそっちに手を上げなくてよかった。
ただこちらも、体温が七度五分以上ある人やマスクを着用していない人は入場禁止になるのでその旨を話してお帰りいただかなければならない。だが、世の中には良くも悪くも色々な人がいる。
そもそも私ごときが話をして素直に帰ってくれるような人なら、マスクをせずに人の集まる場所には来ないしーーこの時の日本人は外出の時には一律マスク姿で、着けていない人は本当に悪目立ちしたーー熱っぽいと思った時点で家から出ないだろう。
だが普段から平熱が高いとか体質的にマスクが合わないとか、世の中にはやはり世の中には色々な人がいる。多数派に押し込められて肩身の狭い思いをしている少数派の主張に耳を傾けこそすれ、封殺する側には決してなりたくないのだが、「ただのクレームやわがまま」とやはり区別しなきゃいけないものなのか?
その旨を沙由ちゃんに言ったら「医療系のコミュ強な学生ボランティアさん、相棒につけるから大丈夫だよ」と言ってくれて、その子も「何かあったら任せてください」と頼もしく胸を叩いてくれた。
それなら安心なのだが……果たしてこれでいいのか30代。
「だってうちの羽心ちゃんが映画に写ってるのよ。応援しなきゃ」
と、親バカ全開のお母さんお父さん、心愛まで上映会のために早目に帰省してくれた。
エキストラで知り合った人たちも家族や友人を連れて大勢やって来てくれたーーというのは広田さんや沙由ちゃんに後から聞いた話だ。お互いマスク姿だったのでほとんどスルーしてしまったが、何人かは向こうから遠慮がちに声を掛けてくれた。
石崎さんはボランティアとして東京から駆けつけてくれたし、HATOKOさんや田部井さんも観に来てくれた。お互い一言挨拶するくらいしかできなかったのだが、HATOKOさんが元気そうでよかったーーしかし美人というのはマスクをしていても美人なんだな。
福引の時にトレードで招待券をゲットしたマダムも見かけた。女友達と一緒でーーえ、夫さんとの思い出の映画じゃないの?
まあ歳を重ねると本人達にしかわからない色々な事があるのかもしれない。
幸いなことに、受付で門前払いしなければならないような人もいず、満員御礼(前列と一席空けだが)の上映会が始まった。
上映会実行委員長の行成さんに続き翔先輩ーー真駒内翔監督が急拵えの舞台に登壇した。会場一杯に熱い拍手が起こり、監督はその前から感無量の涙目に見えた。
「……ここの地域の皆さんに色々協力いただいて映画が完成したんですけどおぉ、ご存知の通り新型感染症の流行で試写会も公開も延期になってしまって……っ……」
早くもつられてウルッとしてしまう私。
「映画製作というのはぁ、本当にぃ、自転車操業なものですから……ハァァ、……イ、インターネット公開や皆さんからの寄付で……どうにか、どうにか持ちこたえていましてっ……。映画に欠かせなかったこの昭和電気館でぇ、無理だと思っていた上映会までえぇ、開いていただいて……、皆さんのっ……皆さんの温かい反応も見られて……うあああああん!」
ついに真駒内監督は、ネット炎上の号泣記者会見ばりに声をあげて泣き出してしまった。
私も他のみんなと一緒に大きな拍手で励ました。「頑張れ!」「町の宝!」なんて掛け声も飛ぶ。
司会進行で舞台の端にいた沙由ちゃんは一人、顔を押さえて小刻みに震えていたーー一見、もらい泣きを堪えているようにも見えるが、あれは何かがツボに入ってしまって爆笑を必死でこらえているに違いない。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる