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清河ーー壱
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芹澤一派の後ろ姿を見送りながら、
「いやしかし、芹澤の野郎が近藤さんに味方するとは思わなかった」
と左之助が呟くと
「味方……、か。今はそう思っておくとするか」
敬助もどうも歯切れが悪い。
ふと今来た道を振り返ると驚いた事に、数十人を越える浪士達が後から後から寺の外に出て来るのだった。中には先程、清河の演説に身振り手振りで大いに共感していた者や、清河の一派として寺に宿を当てがわれていた者まで。
「凄え……やったな、近藤先生!やっぱり正義は勝つんだな、歳さん」
能天気に感激する左之助には応じないまま、歳三は難しい顔でそちらを一瞥しただけで先に行ってしまった。
「あれ……?だって山南さんだって、考え直してくれたらいいって言ったよな」
敬助は首を横に振った。
「それはそうだが、あの連中は違うな。芹澤が降りるから着いて来たーーおおかたそんなところだろう」
浪士組ーーその名の通りの寄せ集め集団ではあるが、曲がりなりにも幕府お抱えで将軍警護を命じられたのだから腕に覚えのある者達ではある。
しかしながら全員が全員、清河が方便で褒めちぎったような愛国に燃え血気盛んな理想主義者ばかりでもない。
当初、五十両が約束された支度金(蓋を開けると人数が人数があまりに集まり過ぎて十両に減額された)狙いの者、寄らば大樹の陰で上手く世渡りして士官に繋げたい者、食うための地味な努力が性に合わずあわよくば一発当てようという輩……
志士を名乗って徒党を組み、去勢を張ってはいてもその本質は付和雷同でご都合主義の凡庸な日和見主義者が大半であった。得てしてそういった輩ほど自己評価が非常に高く、少し頭の切れる同類に持ち上げられるとコロッと騙されがちではあるが、それはまた別な話である。
「しかし水戸浪士と言えば先代の烈公時代より過激な尊皇攘夷かぶれで有名だ。イカれてる者同士清河と気が合うと思いきや、こっちに来るなんて意外だな」
左之助は心底嫌そうに顔をしかめた。
「そこは曲がりなりにも徳川のお膝元という矜持からだろう。それに『鶏口となるも牛後となるなかれ』ーーそう言えば聞こえがいいが、お山の大将は二人も要らん」
左之助もなるほど、と納得して頷いた。
「確かにありゃ、清河の下になんぞ大人しくつけるタマじゃねえや」
「癖の強い連中だが剣の腕と志は確かだ。うまく折り合ってやっていこうじゃないか」
敬助は自分に言い聞かせるように、つとめて明るく言った。
数日後、幕府から正式に浪士組解散と江戸への帰還が通達された。
その日取りが二度ほど延期される間に「浪士組は江戸に帰還後、江戸市中守護職庄内藩預かりとし江戸市中の警護に当たらせる」との軌道修正がされたため、再びこれに応じる者が大多数となった。
十日後、また横浜鎖港への情熱を秘めた清河共々、浪士組は江戸に向けて出立した。
翌月、浪士組が江戸に帰還し市中はお祭り騒ぎの大歓迎だったーー参勤交代の大名が家臣を連れて一斉に京に拠点を移したため江戸全体の警備が手薄となり、治安が悪化し志士もどきの賊や賊まがいの志士により治安が非常に悪化していたからである。
そんな風の噂が伝わって来た、さらに半月ほど後。
「清河が殺された」
実家からの文を読んでいた総司が硬い表情で顔を上げた。元々色の白い顔から血の気が失せ、本当に青白く見える。
「清河が?」
同じ部屋で槍の手入れをしていた左之助と近藤の旧友でもある兄弟子の新八、新八と碁を打っていた若手の平助が一斉に振り向いた。
「林太郎さんからの手紙か」
新八の問いに総司は頷いた。総司の義兄、林太郎も新八や源三郎同様、試衛館先代の弟子である。
寺での会合の際には試衛館派として行動を共にしたものの突然、近藤から帰還組に加わるよう指示された。
「いやしかし、芹澤の野郎が近藤さんに味方するとは思わなかった」
と左之助が呟くと
「味方……、か。今はそう思っておくとするか」
敬助もどうも歯切れが悪い。
ふと今来た道を振り返ると驚いた事に、数十人を越える浪士達が後から後から寺の外に出て来るのだった。中には先程、清河の演説に身振り手振りで大いに共感していた者や、清河の一派として寺に宿を当てがわれていた者まで。
「凄え……やったな、近藤先生!やっぱり正義は勝つんだな、歳さん」
能天気に感激する左之助には応じないまま、歳三は難しい顔でそちらを一瞥しただけで先に行ってしまった。
「あれ……?だって山南さんだって、考え直してくれたらいいって言ったよな」
敬助は首を横に振った。
「それはそうだが、あの連中は違うな。芹澤が降りるから着いて来たーーおおかたそんなところだろう」
浪士組ーーその名の通りの寄せ集め集団ではあるが、曲がりなりにも幕府お抱えで将軍警護を命じられたのだから腕に覚えのある者達ではある。
しかしながら全員が全員、清河が方便で褒めちぎったような愛国に燃え血気盛んな理想主義者ばかりでもない。
当初、五十両が約束された支度金(蓋を開けると人数が人数があまりに集まり過ぎて十両に減額された)狙いの者、寄らば大樹の陰で上手く世渡りして士官に繋げたい者、食うための地味な努力が性に合わずあわよくば一発当てようという輩……
志士を名乗って徒党を組み、去勢を張ってはいてもその本質は付和雷同でご都合主義の凡庸な日和見主義者が大半であった。得てしてそういった輩ほど自己評価が非常に高く、少し頭の切れる同類に持ち上げられるとコロッと騙されがちではあるが、それはまた別な話である。
「しかし水戸浪士と言えば先代の烈公時代より過激な尊皇攘夷かぶれで有名だ。イカれてる者同士清河と気が合うと思いきや、こっちに来るなんて意外だな」
左之助は心底嫌そうに顔をしかめた。
「そこは曲がりなりにも徳川のお膝元という矜持からだろう。それに『鶏口となるも牛後となるなかれ』ーーそう言えば聞こえがいいが、お山の大将は二人も要らん」
左之助もなるほど、と納得して頷いた。
「確かにありゃ、清河の下になんぞ大人しくつけるタマじゃねえや」
「癖の強い連中だが剣の腕と志は確かだ。うまく折り合ってやっていこうじゃないか」
敬助は自分に言い聞かせるように、つとめて明るく言った。
数日後、幕府から正式に浪士組解散と江戸への帰還が通達された。
その日取りが二度ほど延期される間に「浪士組は江戸に帰還後、江戸市中守護職庄内藩預かりとし江戸市中の警護に当たらせる」との軌道修正がされたため、再びこれに応じる者が大多数となった。
十日後、また横浜鎖港への情熱を秘めた清河共々、浪士組は江戸に向けて出立した。
翌月、浪士組が江戸に帰還し市中はお祭り騒ぎの大歓迎だったーー参勤交代の大名が家臣を連れて一斉に京に拠点を移したため江戸全体の警備が手薄となり、治安が悪化し志士もどきの賊や賊まがいの志士により治安が非常に悪化していたからである。
そんな風の噂が伝わって来た、さらに半月ほど後。
「清河が殺された」
実家からの文を読んでいた総司が硬い表情で顔を上げた。元々色の白い顔から血の気が失せ、本当に青白く見える。
「清河が?」
同じ部屋で槍の手入れをしていた左之助と近藤の旧友でもある兄弟子の新八、新八と碁を打っていた若手の平助が一斉に振り向いた。
「林太郎さんからの手紙か」
新八の問いに総司は頷いた。総司の義兄、林太郎も新八や源三郎同様、試衛館先代の弟子である。
寺での会合の際には試衛館派として行動を共にしたものの突然、近藤から帰還組に加わるよう指示された。
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