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第1部

その5

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千秋は、スマホとステレオイヤフォンを取り出し、接続して片方を一色に渡す。

「ショックを受けているところ悪いんだけど、これを聴いてくれる」

一色は千秋と同様に片耳にイヤフォンをさす。
スマホを操作し、音声を再生させる。それは例の襲撃計画の話だった。
最初は怪訝な顔をしていた一色も、内容が分かったらしい、不快な顔つきになった。

「会話の内容と声から察するに、群原の連中ですね」

「そう、ターゲットは私」

千秋は続けて、水曜の会話も聴かせる。

「あの日、そんな事が……、コイツら本当にやろうとしたんですか」

「みたいね、しかもこの計画はまだ、いきているらしいわ」

「警察に」

「できないの」

「なぜ……ああ、これ盗聴なんですね、だから証拠能力が無い」

「しかも相手は、酒の席の会話だからね。過激な内容だけど冗談と言われればそれまでよ」

「なぜいまこれを聴かせたんです」

「現状を逆転させるためよ」

「……伺いましょう」

「うちの課は、私が来る前からリストラ対象。そこに私を入れる事によって、さらにリストラする理由が強まった。だからミスを誘発させるために、うちの課にコンペのプレゼンを任命されたの。それも私がリーダー指名でね」

「それなら課全体の責任になりますものね」

「私はそんな事情を知らないから、敵対派閥が私個人を狙ったものだと思って、失敗しても皆に責任が及ばないように、ひとりでやってたの」

「そういうつもりだったんですね、僕はまた個人プレーが好きな人と思ってましたよ」

「バックパッカーしてた頃に知り合った縁で、何とか安く大量に品物が確保できた。これでいけると思っていたら、課長が難色を示してきた」

「僕は課長からチーフの動きを逐一報告するように言われてました」

「これは課長が敵対派閥にくみしていると私は思ったの」

「違うんですか」

千秋はスマホの画像ファイルを開いた。それは、課長が群原のキジマと会っているものだった。

「課長と群原の奴らが!  どういうことなんです」

「わからない。最初からか、それともどこか途中からかで課長は群原に情報を流している。だからたぶん、こちらより安値でやれたのよ」

「つまりこのままではコンペは負けるという事ですか」

「そしてそれを理由に、半分ゴリ押しで私達はリストラになるというシナリオよ」
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