佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女

藤井ことなり

文字の大きさ
245 / 322
ジャグジーの誓い 短編

その5

しおりを挟む
「鏑井さん、これでもまだ信じきれないかもしれませんが、本当にボクとボスは上司と部下の関係以外何ものでもありません」

 なるべく悲愴感を感じさせないように、落ち着いて語りかけるように伝えるが、蛍はまるで聴こえないようにスマホに見入っていた。

「どうしたの? ケイ」

 千秋の問いかけを無視して、蛍は急に立ち上がると、駆け出してその場から居なくなる。

「ど、どうしたんでしょうか」

「さ、さあ」

「とりあえず服を着てください」

「あ、ゴメン」

 というと、千秋はその場で下着を着けはじめる。
 目の前で展開する上司の生着替えに呆れながら考える。

──この人、意外とポンコツかもしれない。ボクがしっかりしないと──

 千秋が着替え終わった頃、蛍が何かしらの紙を持って戻ってくる。

「ちょっとさっきの画像見せて」

 一色のスマホを引っ手繰って奪いかねん勢いで言うので、戸惑いながらも見せると、持ってきた紙と見比べる。

「……やっぱり一緒だ……」

「なにが?」

AAダブルエー先生の作品[スパダリは俺の嫁、なのに子犬キャラが受けのフリして奪いにくる]のワンシーンと一緒なの、ほらココ、スパダリを守るために子犬キャラを押し倒すトコロ」

 小説の挿し絵というか、プリントアウトした画像を見せる。たしかに一緒だった。
 蛍に見せられた千秋も同感する。

「これ一色くんなの?」

 千秋の言葉に蛍がピクっと反応する。

「このコ、一色っていうの?」

「ああまだ言ってなかったっけ? 一色テンマくん、私の頼りになる部下よ。だからケイ、さっきのコトは水に流して…」

「千秋!!」

「はい?!」

 思わずたじろぐ千秋に蛍は詰問する。

「一色ってコ、アメリカに行ったんじゃないの?!」

「え、あ、アメリカ研修の話は無しになって……って、これも言ってなかったっけ」

「──あんたってコは、あんたってコは、どうしてときどきポンコツになるのよぉ。言ってくれれば無条件で合格にしたのにぃ」

 目の前でおきてる急展開に一色はついていけなかったが、蛍も千秋がポンコツだと思っているのは理解した。

 蛍が一色の方を向くと、さっきとは裏腹にもじもじとした感じで話しかける。

「あ、あの、一色くん。いえ、一色さん……」

「は、はい」

「AA先生の新作を持っているというか手に入れたというのは本当ですか……」

 言われて理解した。
 先月のコンペに勝つためにAAのファンだった相手に新作を書いてもらい渡した一件の事を、千秋が蛍に話したことと、彼女もファンだということを。

「あ、あの、それ……、読ませてください」

 蛍は勢いよく深々と頭を下げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい

葉方萌生
ライト文芸
淡路島で暮らす28歳の城島朝香は、友人からの情報で元恋人で俳優の天ヶ瀬翔が島に戻ってきたことを知る。 絶妙にすれ違いながら、再び近づいていく二人だったが、翔はとある秘密を抱えていた。 過去の後悔を拭いたい。 誰しもが抱える悩みにそっと寄り添える恋愛ファンタジーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。 イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。 8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。 ※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。

下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 四つの巻物と本の解読で段々と力を身につけだした雪翔。 狐の国で保護されながら、五つ目の巻物を持つ九堂の居所をつかみ、自身を鍵とする場所に辿り着けるのか! 四社の狐に天狐が大集結。 第七弾始動! ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...