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変動的不等辺三角形はじまる メグミ編

──メグミになり──

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 あの頃は卒業間近でありなおかつ就職活動中の僕は、自分のことで頭がいっぱいで、恵二郎は恵二郎でバイトとサークル活動で忙しくしていたので、すれ違いの生活になっていた。

 卒論をまとめるために友達のところに泊まり込んだり、図書館に通って遅くに帰るなどしてアパートに戻ると、バイトもしくは撮影などで不在の恵二郎に会えずにいた。

 そんな生活を互いにしてたが、卒論がまとまったことをメールしたら、たまたま一緒に過ごせる日があったので、恵二郎が御馳走すると返信してきた。

「御馳走というからどっかのお店に行くかと思ったぞ」

「バイト先で覚えた料理を食べてもらいたくてさ、たまにはけいちゃんと呑みたかったし」

 いそいそと台所で料理する弟を見て、なんとなく違和感があった。
 冬場だからTシャツではなくセーターにジーンズという格好なのだが、なんだろう、なんで違和感があるのだろう。今ならわかる、セーターが薄いパープルでジーンズがタイトになり下半身のラインがセクシーだったからだ。

 だが当時は分からなかった。だから気のせいだと思い、恵二郎の作った餃子と唐揚げに炒飯がちゃぶ台に並ぶ方に興味が移った。

「すごいな、これお前が作ったのか」

「そぅよぉ、美味しいんだからぁ」

「なんか喋り方変わったか、妙に女っぽいんだが」

「撮影のせいじゃない、女装するの多いからかなぁ」

「もう女の格好するのに抵抗はないみたいだな」

「うん、むしろ楽しいくらいよ」

 対面に座ると、缶ビールのフタを開けてコップに注いでくれる。手つきもなんとなくしなをつくっている感じがする。

「はい、卒論完成おめでとー、かんぱーい」

「ありがと」

「就職先は決まったの」

「とりあえずな、群春物産という商社に内定をもらったよ」

「へぇ、商社ねぇ。旅行会社とかホテルじゃないんだ」

「今のところはな。お前だってウチの跡継ぐ気ないんだろ」

「うーん、まだ考えたことないなー」

 この話をするとお互い黙ってしまうので、話題をかえて料理の話となった。
 バイト先でたまに賄いをまかせてもらえるくらいの腕前だと嬉しそうに言う。たしかに美味かった、唐揚げなどビールがどんどんすすむくらい美味しく、餃子にいたっては皮から作ったと聞いて驚きもした。

 炒飯を食べて締めると後かたづけを任せて寝ることにした。
 洗面所で歯磨きをしているときも酔っていたせいか気づかなかった、スキンケアの化粧品が並んでいることに、それが女物だということにも。
    
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