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変動的不等辺三角形はじまる メグミ編

その6

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 一時間ほど前、JR壱ノ宮駅の改札口で待ち合わせていると、エム鉄の改札口から物凄い美人が出てきた。

 ウェーブのかかった肩まであるブラウンの髪をなびかせて、肩幅のしっかりしたパールカラーのジャケットにピンクのフリル襟のシャツ、タイトスカートもジャケットと同色で、スラリとした足は薄いピンクのストッキングで包まれ、その先は白色のヒールを履いている。

 帰宅途中の人々が足を止めて見惚れてしまう美人に気づいた僕に向かって、手を振ってくる。

「けいちゃ~ん」

 ……、……、……、あーーーーっ!!!!

 気づいたときにはその美人に抱きつかれていた。周囲の人達の注目の的となる。

「け、恵二郎か」

「そうだよ~、わからなかったの?」

 ……、全然わからなかった。

 僕達兄弟は似てはいるが、どちらかというと僕は男顔で恵二郎は女顔だ。だから化粧したり女装したりすると、恵二郎の方が女っぽくなるけど、まさかここまでとは……。

「どうしたんだ、その格好は。見違えたぞ」

「へへー、プロのメイクさんとコーディネーターにやってもらったの。いいでしょー」

「とりあえず離れろ、皆が見ている」

 取り囲むように群がる人目から逃れるようにその場を離れるが、恵二郎が腕を組むので歩きづらく、ゆっくりとなる。すれ違う人からステキなカップルねなどと言われたので、全力で否定したかったが、とにかく早くこの場から逃げ出したかった。近場で早く用件を済ませようと思い、結局例のカフェに行くことになった。

 そしてなんの因果か、また同じ席に案内され対面で座る羽目になる。頼むから僕のことは覚えていないでくれよ。

「さっさと片付けようか。どんな内容なんだ」

「はいはい、これね」

ショルダーバッグからクリアファイルに挟まれた書類を取り出し渡される。
 行政書士が作成したようなきちんとしたモノではないが、とりあえず体裁は整っていた。そしてすでに僕の名前が記名されている。

「あのな恵二郎、じゃなかった、メグミだっけ。保証人になることはいいが、ちゃんとスジは通せよ。でないとよけいな恨みや怒りを買うことになるぞ」

「は~い、わかってるってば」

わかってるヤツはこんなことしないんだがな。

 判子を捺してやると、卒業証書を受け取るようにメグミは受け取り、クリアファイルに雑に入れてバッグにしまう。

「それじゃこれでな」

「なに急いでるの」

「言ったろ、これから班の納会だって。これから近くの居酒屋でやるんだよ」

「アタシも行きたーい」

「仕事の仲間とだからダメだ。どうしてもというんなら離れてひとりで飲んでろ」

……結局ついてきて、別々に座る──筈が、ほぼ満席だったので相席をお願いされ、現在に至ってしまったのだ。

だから蓮池さん、僕のせいじゃないから睨まないでくれよ。
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