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変動的不等辺三角形はじまる メグミ編
その3
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ゴミ袋を持っているということはゴミ出しに出てきたのだろう。長い髪をシュシュでまとめて黒いTシャツと黒いデニム姿ではあるが、間違いない恵二郎だ。
素っぴんで男っぽい顔立ちと姿を見てホッとした。やっぱりあいつは男なんだと。
「恵二郎」
声をかけて近づくと、気がついた恵二郎は顔を上げて僕に気づく。途端、悲鳴をあげてその場に座り込む。そしてぼろぼろと声を上げて泣き始めた。
「お、おい、どうした恵二郎」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいーーー、ごめんなさーい」
泣きながら謝り続ける弟にどうしていいか分からず、中腰になりながら近づく。すると店の中から声が聴こえてきた。
「どうしたメグミ、なんかあったのか」
ラフなスウェット姿の男が出てくると、僕に顔を向ける。
「なんだあんた、メグミに何したんだ」
「何もしてない、恵二郎が急に泣き出したんだ」
「恵二郎? なんであんた……、起先輩ですかひょっとして」
「朝日くんか、ひさしぶりだな。とりあえずなんとかしてくれないか、周りが気になる」
年末の大須はいつもより人出が多い。こんな外れでも道行く人が多いので野次馬が集まりはじめていた。
泣き続ける恵二郎を朝日くんが抱き起こし店の中に入る。続いて僕も入り、扉を閉める。
「すいません起先輩、ゴミ出しだけはしておかないといけないのでちょっと行ってきます。すぐに戻りますから」
朝日くんは恵二郎が出す予定だったゴミ袋を手に出ていく。
店内は薄暗く、昼間よりは夜営業する感じだった。
恵二郎はウォーマーからおしぼりを取り出すと涙をぬぐう。なかなか泣きやまない、正直戸惑う。昨夜というか、ここしばらくの恵二郎からはとても同一人物とは思えないほど印象が違う。
女の子みたい、というよりは何だろう、なにか覚えがある。こんな恵二郎を見たことがある。
……そうだ、子供の頃の恵二郎だ。いじめられてからかわれて泣きながら僕に頼ってきた頃の弟だ。
「……ご、……ごめんなさい、お兄ちゃん……」
「落ち着け恵二郎、何も怒ってないから」
「……ほんと?」
「ああ」
「でも怒っているから来たんでしょ」
「違う違う、ほら、部下の北今くんと玉野くん、酔いつぶれたからお前と遊べなかったろう。だからお店に来ようという話になったんで場所を確認しに来ただけだ」
「ほんとに?」
「ああもちろんだ」
正直いえば多少は怒るつもりだったが、まさかこんな展開になるとは思わなかったから、拍子抜けというか毒気を抜かれてしまい、その気がなくなってしまったのだ。
「おまたせしました。いまコーヒー淹れますね」
戻ってきた朝日くんが、カウンターの中に入るとコーヒーメーカーのスイッチを入れた。
素っぴんで男っぽい顔立ちと姿を見てホッとした。やっぱりあいつは男なんだと。
「恵二郎」
声をかけて近づくと、気がついた恵二郎は顔を上げて僕に気づく。途端、悲鳴をあげてその場に座り込む。そしてぼろぼろと声を上げて泣き始めた。
「お、おい、どうした恵二郎」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいーーー、ごめんなさーい」
泣きながら謝り続ける弟にどうしていいか分からず、中腰になりながら近づく。すると店の中から声が聴こえてきた。
「どうしたメグミ、なんかあったのか」
ラフなスウェット姿の男が出てくると、僕に顔を向ける。
「なんだあんた、メグミに何したんだ」
「何もしてない、恵二郎が急に泣き出したんだ」
「恵二郎? なんであんた……、起先輩ですかひょっとして」
「朝日くんか、ひさしぶりだな。とりあえずなんとかしてくれないか、周りが気になる」
年末の大須はいつもより人出が多い。こんな外れでも道行く人が多いので野次馬が集まりはじめていた。
泣き続ける恵二郎を朝日くんが抱き起こし店の中に入る。続いて僕も入り、扉を閉める。
「すいません起先輩、ゴミ出しだけはしておかないといけないのでちょっと行ってきます。すぐに戻りますから」
朝日くんは恵二郎が出す予定だったゴミ袋を手に出ていく。
店内は薄暗く、昼間よりは夜営業する感じだった。
恵二郎はウォーマーからおしぼりを取り出すと涙をぬぐう。なかなか泣きやまない、正直戸惑う。昨夜というか、ここしばらくの恵二郎からはとても同一人物とは思えないほど印象が違う。
女の子みたい、というよりは何だろう、なにか覚えがある。こんな恵二郎を見たことがある。
……そうだ、子供の頃の恵二郎だ。いじめられてからかわれて泣きながら僕に頼ってきた頃の弟だ。
「……ご、……ごめんなさい、お兄ちゃん……」
「落ち着け恵二郎、何も怒ってないから」
「……ほんと?」
「ああ」
「でも怒っているから来たんでしょ」
「違う違う、ほら、部下の北今くんと玉野くん、酔いつぶれたからお前と遊べなかったろう。だからお店に来ようという話になったんで場所を確認しに来ただけだ」
「ほんとに?」
「ああもちろんだ」
正直いえば多少は怒るつもりだったが、まさかこんな展開になるとは思わなかったから、拍子抜けというか毒気を抜かれてしまい、その気がなくなってしまったのだ。
「おまたせしました。いまコーヒー淹れますね」
戻ってきた朝日くんが、カウンターの中に入るとコーヒーメーカーのスイッチを入れた。
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