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変動的不等辺三角形はじまる メグミ編

その4

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 ──店内の明かりが点く。入り口反対側の正面にはステージがあり、客席は丸テーブルで四人がけの席がざっと十席くらいだろうか、それがわりと大きなすき間を空けて雑然と整列している。その中のひとつに僕達は座っている。

 コーヒーを淹れ終えて三人分を持ってくると、朝日くんは椅子を恵二郎の座っている方に近づけてから座った。

「あらためましてご無沙汰してます、起先輩。今日はまたどうしてこちらに?」

「今、恵二郎にも話したんだが……」

昨夜の出来事とその後を話して、ここに来た理由を話した。

「そういうことでしたか。こいつが昨夜ずいぶんと落ち込んでいたんで、なにかやらかしたと思ってたんですが」

まだ泣いている恵二郎をじろりと見たあと、上にあがって化粧直ししてこいと言い、恵二郎は席を外す。
 姿が見えなくなるのを確認して、朝日くんが僕に頭を下げた。

「すいません、起先輩。ウチのメグミが、粗相をしまして申し訳ありませんでした」

「あ、いや、朝日くんが謝ることじゃないよ」

「いいえ、メグミの姿でやらかしたことです。これは店長であるオレにも責任があります」

言葉のニュアンスと態度で恵二郎を守ろうとしているのが伝わる。すこし苛立った。なぜなら僕は兄であり弟に対して害をくわえるようなことはしない、まるで僕より身近な存在のような振る舞いにカチンときた。

「君はいつまで弟を女装させるつもりなんだ、あいつは男だぞ、あんな格好で歩き廻るなんてどうかしている」

「メグミは女装ではなく装っているんです。見たでしょう、アイツのキレイさを」

「だからってスカート姿はやり過ぎだ」

「脚の美しさを強調するためです。筋肉質ではない細くしなやかなカタチ、ヒールでさらに映える」

「だったらせめてタイトジーンズでいいだろう、スカートだから女装になるんだから」

「素足ならスカートがいいんです。ズボンでは股間が強調されてしまう」

「それだ。あいつが男である証拠だろうそれは」

「それは……、でもあいつは、メグミは、そんな男女の性別を超えた美しさがあるんです、メグミの[なにか]はサムシングはそういう美しさなんです」

「恵二郎をメグミって言うな、僕の弟の名前は起恵二郎だ」

「アイツはメグミです、もうメグミなんです」

だんだんとヒートアップしてきた二人の間に割って入ってきたのは、化粧直しを終えた恵二郎だった。

「けいちゃん、もうやめて。先輩も落ち着いてよ」

 服装は同じ黑Tシャツと黑デニムだが、化粧を終えて美しくなった弟を見て、朝日くんに何も言い返せなくなった。
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