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変動的不等辺三角形はじまる メグミ編

その6

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 JR高島屋入り口前にある時計台で待っていると、スマホが震える。蓮池さんからの通話だったのですぐさま出る。

「班長、今着きました。今何処に……、あ、わかりました」

 きょろきょろと彼女を探していると正面からスマホを耳にあて、もう片手を振りながらかけてくるのが見えた。
 白のベレー帽、黒の薄手ニットに白の上着、モノトーンチェックのキュロットスカートに黒のストッキングに黒のローファー。すこし浅黒い肌色の彼女はそれを気にしているのかモノトーンの配色を好む。

「お待たせしました」

「いやこちらこそ。わざわざ名古屋まで来てもらって悪かったね」

 息を整えた彼女とともに高島屋十二階のレストラン街に移動すると、適当に選んだお店に入る。年末のお昼どきで混雑していたが、ひと席空いたところでそこに案内された。
 食事がまだだったのでセット料理を頼んで人心地つくと、さっそく何があったのかと訊かれる。

「じつは……」

 先程の恵二郎とのやりとりを話すと呆れ顔をされる。

「なんでまたわざわざ会いに行ったんです。電話かメールですんだ話なのに」

「いやなんとなく……」

 誤魔化すつもりでそう言ったが、蓮池さんは僕の顔というか目をじっと見る。そらしたかったが、追いかけてるくらいその視線には逃げられなかった。

「嘘をついてますね。じゃなくて……、半分嘘という感じかな」

──本当にこのコはこころを見透かすな。

「正直に言ってください、ちゃんとしないとこのままメグミちゃんと縁が切れてしまいますよ」

「それだ。僕は恵二郎というのに、みんなメグミと言うんだよ。あいつは僕の弟で男なのに」

「それに関してはですね昨夜から考えていたんですけど、わたしも美恵もメグミちゃんの男姿を見たことないんですよ。あれだけの美貌ですよ、言われないと男だなんて思えないんです。班長は幼い頃から一緒だから知ってるけど、わたし達は知らないんですよ」

──そういうことか。
 先入観、この場合は恵二郎を男と知らずに初見でどっちだと言われたら、どう見てもオンナに見えるからか。

「でも朝日くんもメグミ扱いしてるし……」

「その人が女装させた、というかメグミちゃんにしたんですよね。ならそう言って当たり前じゃないですか」

「……僕がおかしいのかな」

「そういう話じゃないです……んー、班長は何にこだわるというか引っかかっているかが問題だと思います」

「何にこだわっているっていうんだい」

「わかりません、昨夜もわかりませんでした。だからもう少し自分に問いかけてみませんか」
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