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変動的不等辺三角形はじまる メグミ編

大団円の控え室

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「げい゛ぢゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛ん゛ん゛」

 [レディ・クイーン]のキャスト控え室にメグミの泣き声がこだまする。そこにはその発生源を抱きしめ慰める僕と、それを温かい目で見るアヤカ先生と朝日くんがいた。

「いいからもう泣き止めないか。仕事中だろ、朝日くんも困ってるじゃないか」

「だっで、だっで、だっでぇぇぇぇ」

 ダメだ、当分泣き止みそうにない。
 しょうがないなと思いながら頭を撫でてやる。

「朝日くん、すまない。迷惑かけるな」

「いえ……、昼からずっと落ち込んでたんですよメグミのヤツ。和解できて良かったです」

 何がなんだかわからないけど、とりあえず兄妹仲は良くなったのは伝わったらしい。ホッとした表情をしている。

「どのみち今日は使いモノになりませんでしたからね。今夜は休みにします。その代わり明日から連勤だからな」

「ゔ、ゔん」

 何度も頷くメグミに安心したので帰ることにした。
 メグミの涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった化粧が胸についてしまったので、応急処置で拭いたあと、朝日くんのコートを借りて隠す。

「それじゃなメグミ。年明けの休みになったら連絡してくれ。その時また話そうな」

「げい゛ぢゃん゛が、げい゛ぢゃん゛が、メグミって言ってぐれだぁぁぁ」

 ──ダメだ、今は何を言っても泣いてしまうらしい。涙腺のバルブが全開になって閉まらないのだろう。
 背中をポンポンと叩いてからまたなと伝えて美恵──いや、今はアヤカ先生か──に帰ると告げる。

「そうね、ここにはもう問題は無いわ。次の問題が先生を待っているから……サヨウナラよ」

「ぜんぜい゛ぃぃぃ」

──誰が話しても泣くんだな。

「いきましょ」

颯爽と出ていくアヤカ先生のあとを追いかける僕を、朝日くんが呼び止める。

「起先輩、あの人が先輩の恋人ですか」

恋人と言われたのは初めてだったので少し照れ臭くなる。

「まあな」

「何者なんです? お二人の仲をあっという間に改善してしまいましたよ」

「何者って……、美恵は美恵だよ。それじゃ」

 明確な返答をしないまま──というか出来ないまま──僕は美恵の後を追いかけた。

 外に出ると、年末の寒空に震えている美恵がいた。
 すぐさまコートの中に入れて背中に腕をまわす。

「温か~い」

「美恵もコート着てくればよかったな」

「ダメよ、先生はコートを着ない主義なんだから。寒くても凛と胸を張って颯爽と歩くんだから」

──どうやらまだスイッチが入ってるらしい。このままだと帰り道に問題が起きるかもしれない。

「美恵」

「な……ん──」

人目が無いのを確認して目覚めのキスをした……。

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