上 下
65 / 69
変動的不等辺三角形はじまる メグミ編

その6

しおりを挟む
「師匠に弟子入りしてみてもらったら、何でも作れるからレイヤー用仕立て屋が向いてるからそっち方面でやれって言われたの」

「へぇ、それでやってるのか。ちなみにどうやって伸ばしたの」

「カメラマンさんと一緒。キャラになりきること。それと……着手であるレイヤーさんの思いを知ることだって……」

語尾がなんか歯切れが悪いな。

「でね、……あたしはあんまりレイヤーさんと関わりたくないの……」

 これは意外な言葉だった。
 なぜなら僕からみた美恵は社交的な性格だからだ。

「美恵ならうまく客あしらいできるだろ」

「うーん……、まあね。でもまあ色々あるから……」

声のトーンも下がってきた、あまり深く追求しないほうが良さそうだ。

「関わらないとしたら要望とか採寸はどうしてるんだい」

「師匠にやってもらってる。あたしはもらったデータ通りに仕立ててるの」

「ふーん……て、師匠は本格テーラーなんだろ? なんでレイヤーの依頼が来るんだ」

 紳士服テーラーにコスプレ用の衣装を頼むなんて、フレンチレストランで定食を頼むみたいにミスマッチとしか思えなかった。

「なんかね、師匠の知り合いで無理難題ばかりいってくる人がいるんだって。その人の仕事がこっちにまわってくるの。だから師匠が採寸と事情を汲み取って、それがあたしのところにきて、完成品を師匠にわたすという流れになってるの」

 はた迷惑なヤツがいるんだな。

「だからね、あたしはキャラになりきることを深堀することにしたの。なるだけキャラになりきってから仕立る。それに力を入れることにしたの」

──なるほど。それが美恵がキャラ変する理由というか下地になったというわけか。

 マンションに到着したのでこの話題はお開きとなった。
 帰宅していつもどおりハグをする。
 気持ちのこもった、互いを大事に思うハグだった。

「寒かったね」

「エアコンつけてお風呂いれるから待ってろ。それまでこのコート羽織ってな」

「そんなのあたしがやるから」

「いいから」

 コートを脱いで美恵に被せると、リビングにあるリモコンを取りスイッチを入れ、風呂場に行きお湯をはる。
 ついでに化粧で汚れたセーターを脱衣かごにいれたが

「圭一郎さん、それはバケツに入れてお湯につけて。そのほうが化粧が落ちやすいから」

と、美恵からの指南がはいった。

「わかった」

言われたとおりにすると、あとは湯が溜まるのを待つだけとなり動きが止まったので寒さを感じブルっと震える。

「はやく湯がたまらないかな」

「はやく溜まる方法があるよ」

そう言うと美恵はコートを脱いだ。
しおりを挟む

処理中です...