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第一話 ある老人の死
その2
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「それで? デリヘルのバイトでクミってコを送迎してどうなったんだ」
「クミちゃん、本名は久本愛美っていうんだけど、金づかいの荒いコでね。[ショーラン]ではじめ働いてたんだけど、もっと稼ぎたいからってデリヘル嬢になったコ。
そういう経緯があったからショーランママが警戒しててね、で、モメそうだからとオレが送迎担当になったんだ」
「じゃあ、あのコが本番行為してたの知ってたのか」
「まさか。してたっぽいけど、現場を見たわけじゃないしね。さりげなく注意するくらいしかなかったよ。
で、そんなクミちゃんの金まわりがよくなった。ブランド物のアクセサリーやバッグを持つようになり、住むところもアパートからマンションにかわった。そして定期的に同じホテルの同じ部屋に指名がはいった。こりゃあ太客をつかまえたなと思ったけど、しばらくして様子が変わってきた」
「どんなふうに」
「指名が入ると喜んでウキウキとホテルに行ってたのに、だんだん表情が暗くなってきた。そしてある日、部屋に迎えに来てくれと連絡が入り、ホテル側に断って部屋の前まて迎えに来ると、客とモメていた。それが金尾だったのさ」
「じゃあそこでわかったんですか」
「まだだよ。マキちゃん急かないで」
ミドウが苦笑する。
「さんざんお前に振り回されたんだ、急くのも無理ないさ」
クロがツッコむ。
「なんだよぉ、オレのせいみたいに言うなよ」
「ミドウさんのせいです!!」
「おお怖。ま、その日は落ち着かせて無事に済んだけど、あれは諦めてないなと思ってクミちゃんに事情を訊いた。よくあるトラブルで嬢に本気になったってやつだ。金尾は指名してくるだけでなく、他の客がつかないようにホテル前で張り込んだり、クミちゃんの居場所を知ろうと後を尾けるようになった。ここでショーランママとは別にクミちゃんから依頼されたのさ、何とかしてくれって」
「それで金尾を調べたのか」
「ああ。ホテル前で張ってる金尾を逆に尾行して住処を突き止めた。そこで驚いたのさ、例の工務店だったから」
「繋がったな」
「ああ。仕事は変わらないのにたまに金まわりのいい臨時雇い、そして社長の金尾はいつも金まわりがいい。調べてみる価値があるなと、あの辺りをポスティングしながら張り込んでたのさ」
「それでチラシ配りやってたんですか」
「まあね。クミちゃんのことはできりゃ穏便にすませたかったから[デリヘイッチョウ]のチラシをポスティングして暗に知られているぞと警告してみたけど意味なかったな」
「それで金尾の空き巣という副業をやっているのは、いつ気がついたんだ」
「金尾が怪しいと知ったオレは居酒屋で社員に聞き込みをした。いつも来てくれるからサービスするよって酒代をだしたら大喜びで呑んで、べろべろに酔っ払ったところで聞き出した。
ずっと赤字だったけど社長がパソコンをはじめてから仕事が来るようになり、人件費を削る為ときどきひとりで仕事に行ってるってな」
そういうやり方は警察ではできないなとマキは思う。
「それでピンときた。金尾は空き巣か窃盗をやってるんじゃないかってな。だからエサをまいた」
「なにをした」
「例の喫茶店にはお宝が眠ってるって噂を社員にさり気なく教えたのさ。そしてクミちゃんに高価な指輪をプレゼンした。プレゼントじゃないよ、プレゼンテーションだからね」
「わかってます。それでクミさんが金尾に大金を無心して、急に必要な状態にした。そしてお宝があるという噂を社員から聞く、そして犯行に及ぶのを待ってたわけですね」
「ノーコメント」
(そうだと言えば教唆犯として逮捕できたのにぃ)
「ミドウ、肝心な事言ってないぞ」
「何を?」
「どうして犯行日、犯行時刻が分かったかだ。マキくんとの勝負の報酬はそれだろ」
「ああ。それなら簡単、たまたまだよ。そこまでは分からないからな」
「嘘つかないでください、たまたまで張り込み初日に来るわけないじゃないですか」
「ホントにたまたまだってば。マキちゃんもってるねぇ」
からかうような言い方をされたので、マキはさらにヒートアップ。視線がクロの横にある果物ナイフにうつる。
「ミドウ、いい加減にしろ。マキくん、帰るぞ」
「いいんですか班長」
「訊きたいことは聞けた。あとはこっちの仕事だ」
「しかし」
「帰るぞ」
「……はい」
椅子から立ち上がり、クロはミドウをじろりと見下ろす。余計なこと言うなよという無言の圧力だった。
それを知ってか知らずかミドウはバイバイと手を振ると布団に潜り込んで寝たふりをする。
怒りがおさまらないマキだが、クロにうながされて一緒に病室をあとにするのだった。
※ ※ ※ ※ ※
「班長、どうして追求しなかったんです」
ふたりきりのエレベーターの中でマキが問う。
「犯行日時がわかったのは勿論アイツが見張ってたからだろう。だがその時刻に別の場所に居たという証拠があるだろ」
「あ」
修文大学辺りの日光川の土手に居たという防犯カメラの映像があり、それを確かめたのは他ならぬマキ本人だ。
「だからアイツのを受け入れるしかないんだ。……クソっ」
「クミちゃん、本名は久本愛美っていうんだけど、金づかいの荒いコでね。[ショーラン]ではじめ働いてたんだけど、もっと稼ぎたいからってデリヘル嬢になったコ。
そういう経緯があったからショーランママが警戒しててね、で、モメそうだからとオレが送迎担当になったんだ」
「じゃあ、あのコが本番行為してたの知ってたのか」
「まさか。してたっぽいけど、現場を見たわけじゃないしね。さりげなく注意するくらいしかなかったよ。
で、そんなクミちゃんの金まわりがよくなった。ブランド物のアクセサリーやバッグを持つようになり、住むところもアパートからマンションにかわった。そして定期的に同じホテルの同じ部屋に指名がはいった。こりゃあ太客をつかまえたなと思ったけど、しばらくして様子が変わってきた」
「どんなふうに」
「指名が入ると喜んでウキウキとホテルに行ってたのに、だんだん表情が暗くなってきた。そしてある日、部屋に迎えに来てくれと連絡が入り、ホテル側に断って部屋の前まて迎えに来ると、客とモメていた。それが金尾だったのさ」
「じゃあそこでわかったんですか」
「まだだよ。マキちゃん急かないで」
ミドウが苦笑する。
「さんざんお前に振り回されたんだ、急くのも無理ないさ」
クロがツッコむ。
「なんだよぉ、オレのせいみたいに言うなよ」
「ミドウさんのせいです!!」
「おお怖。ま、その日は落ち着かせて無事に済んだけど、あれは諦めてないなと思ってクミちゃんに事情を訊いた。よくあるトラブルで嬢に本気になったってやつだ。金尾は指名してくるだけでなく、他の客がつかないようにホテル前で張り込んだり、クミちゃんの居場所を知ろうと後を尾けるようになった。ここでショーランママとは別にクミちゃんから依頼されたのさ、何とかしてくれって」
「それで金尾を調べたのか」
「ああ。ホテル前で張ってる金尾を逆に尾行して住処を突き止めた。そこで驚いたのさ、例の工務店だったから」
「繋がったな」
「ああ。仕事は変わらないのにたまに金まわりのいい臨時雇い、そして社長の金尾はいつも金まわりがいい。調べてみる価値があるなと、あの辺りをポスティングしながら張り込んでたのさ」
「それでチラシ配りやってたんですか」
「まあね。クミちゃんのことはできりゃ穏便にすませたかったから[デリヘイッチョウ]のチラシをポスティングして暗に知られているぞと警告してみたけど意味なかったな」
「それで金尾の空き巣という副業をやっているのは、いつ気がついたんだ」
「金尾が怪しいと知ったオレは居酒屋で社員に聞き込みをした。いつも来てくれるからサービスするよって酒代をだしたら大喜びで呑んで、べろべろに酔っ払ったところで聞き出した。
ずっと赤字だったけど社長がパソコンをはじめてから仕事が来るようになり、人件費を削る為ときどきひとりで仕事に行ってるってな」
そういうやり方は警察ではできないなとマキは思う。
「それでピンときた。金尾は空き巣か窃盗をやってるんじゃないかってな。だからエサをまいた」
「なにをした」
「例の喫茶店にはお宝が眠ってるって噂を社員にさり気なく教えたのさ。そしてクミちゃんに高価な指輪をプレゼンした。プレゼントじゃないよ、プレゼンテーションだからね」
「わかってます。それでクミさんが金尾に大金を無心して、急に必要な状態にした。そしてお宝があるという噂を社員から聞く、そして犯行に及ぶのを待ってたわけですね」
「ノーコメント」
(そうだと言えば教唆犯として逮捕できたのにぃ)
「ミドウ、肝心な事言ってないぞ」
「何を?」
「どうして犯行日、犯行時刻が分かったかだ。マキくんとの勝負の報酬はそれだろ」
「ああ。それなら簡単、たまたまだよ。そこまでは分からないからな」
「嘘つかないでください、たまたまで張り込み初日に来るわけないじゃないですか」
「ホントにたまたまだってば。マキちゃんもってるねぇ」
からかうような言い方をされたので、マキはさらにヒートアップ。視線がクロの横にある果物ナイフにうつる。
「ミドウ、いい加減にしろ。マキくん、帰るぞ」
「いいんですか班長」
「訊きたいことは聞けた。あとはこっちの仕事だ」
「しかし」
「帰るぞ」
「……はい」
椅子から立ち上がり、クロはミドウをじろりと見下ろす。余計なこと言うなよという無言の圧力だった。
それを知ってか知らずかミドウはバイバイと手を振ると布団に潜り込んで寝たふりをする。
怒りがおさまらないマキだが、クロにうながされて一緒に病室をあとにするのだった。
※ ※ ※ ※ ※
「班長、どうして追求しなかったんです」
ふたりきりのエレベーターの中でマキが問う。
「犯行日時がわかったのは勿論アイツが見張ってたからだろう。だがその時刻に別の場所に居たという証拠があるだろ」
「あ」
修文大学辺りの日光川の土手に居たという防犯カメラの映像があり、それを確かめたのは他ならぬマキ本人だ。
「だからアイツのを受け入れるしかないんだ。……クソっ」
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