コドク 〜ミドウとクロ〜

藤井ことなり

文字の大きさ
36 / 49
第一話 ある老人の死

その2

しおりを挟む
「それで? デリヘルのバイトでクミってコを送迎してどうなったんだ」

「クミちゃん、本名は久本愛美っていうんだけど、金づかいの荒いコでね。[ショーラン]ではじめ働いてたんだけど、もっと稼ぎたいからってデリヘル嬢になったコ。
 そういう経緯があったからショーランママが警戒しててね、で、モメそうだからとオレが送迎担当になったんだ」

「じゃあ、あのコが本番行為してたの知ってたのか」

「まさか。してたっぽいけど、現場を見たわけじゃないしね。さりげなく注意するくらいしかなかったよ。
 で、そんなクミちゃんの金まわりがよくなった。ブランド物のアクセサリーやバッグを持つようになり、住むところもアパートからマンションにかわった。そして定期的に同じホテルの同じ部屋に指名がはいった。こりゃあ太客をつかまえたなと思ったけど、しばらくして様子が変わってきた」

「どんなふうに」

「指名が入ると喜んでウキウキとホテルに行ってたのに、だんだん表情が暗くなってきた。そしてある日、部屋に迎えに来てくれと連絡が入り、ホテル側に断って部屋の前まて迎えに来ると、客とモメていた。それが金尾だったのさ」

「じゃあそこでわかったんですか」

「まだだよ。マキちゃん急かないで」

 ミドウが苦笑する。

「さんざんお前に振り回されたんだ、急くのも無理ないさ」

 クロがツッコむ。

「なんだよぉ、オレのせいみたいに言うなよ」

「ミドウさんのせいです!!」

「おお怖。ま、その日は落ち着かせて無事に済んだけど、あれは諦めてないなと思ってクミちゃんに事情を訊いた。よくあるトラブルで嬢に本気になったってやつだ。金尾は指名してくるだけでなく、他の客がつかないようにホテル前で張り込んだり、クミちゃんの居場所を知ろうと後を尾けるようになった。ここでショーランママとは別にクミちゃんから依頼されたのさ、何とかしてくれって」

「それで金尾を調べたのか」

「ああ。ホテル前で張ってる金尾を逆に尾行して住処を突き止めた。そこで驚いたのさ、例の工務店だったから」

「繋がったな」

「ああ。仕事は変わらないのにたまに金まわりのいい臨時雇い、そして社長の金尾はいつも金まわりがいい。調べてみる価値があるなと、あの辺りをポスティングしながら張り込んでたのさ」

「それでチラシ配りやってたんですか」

「まあね。クミちゃんのことはできりゃ穏便にすませたかったから[デリヘイッチョウ]のチラシをポスティングして暗に知られているぞと警告してみたけど意味なかったな」

「それで金尾の空き巣という副業をやっているのは、いつ気がついたんだ」

「金尾が怪しいと知ったオレは居酒屋で社員に聞き込みをした。いつも来てくれるからサービスするよって酒代をだしたら大喜びで呑んで、べろべろに酔っ払ったところで聞き出した。
 ずっと赤字だったけど社長がパソコンをはじめてから仕事が来るようになり、人件費を削る為ときどきひとりで仕事に行ってるってな」

 そういうやり方は警察ではできないなとマキは思う。

「それでピンときた。金尾は空き巣か窃盗をやってるんじゃないかってな。だからエサをまいた」

「なにをした」

「例の喫茶店にはお宝が眠ってるって噂を社員にさり気なく教えたのさ。そしてクミちゃんに高価な指輪をプレゼンした。プレゼントじゃないよ、プレゼンテーションだからね」

「わかってます。それでクミさんが金尾に大金を無心して、急に必要な状態にした。そしてお宝があるという噂を社員から聞く、そして犯行に及ぶのを待ってたわけですね」

「ノーコメント」

(そうだと言えば教唆犯として逮捕できたのにぃ)

「ミドウ、肝心な事言ってないぞ」

「何を?」

「どうして犯行日、犯行時刻が分かったかだ。マキくんとの勝負の報酬はそれだろ」

「ああ。それなら簡単、たまたまだよ。そこまでは分からないからな」

「嘘つかないでください、たまたまで張り込み初日に来るわけないじゃないですか」

「ホントにたまたまだってば。マキちゃんもってるねぇ」

 からかうような言い方をされたので、マキはさらにヒートアップ。視線がクロの横にある果物ナイフにうつる。

「ミドウ、いい加減にしろ。マキくん、帰るぞ」

「いいんですか班長」

「訊きたいことは聞けた。あとはこっちの仕事だ」

「しかし」

「帰るぞ」

「……はい」

 椅子から立ち上がり、クロはミドウをじろりと見下ろす。余計なこと言うなよという無言の圧力だった。

 それを知ってか知らずかミドウはバイバイと手を振ると布団に潜り込んで寝たふりをする。

 怒りがおさまらないマキだが、クロにうながされて一緒に病室をあとにするのだった。

※ ※ ※ ※ ※

「班長、どうして追求しなかったんです」

 ふたりきりのエレベーターの中でマキが問う。

「犯行日時がわかったのは勿論アイツが見張ってたからだろう。だがその時刻に別の場所に居たという証拠があるだろ」

「あ」

 修文大学辺りの日光川の土手に居たという防犯カメラの映像があり、それを確かめたのは他ならぬマキ本人だ。

「だからアイツのを受け入れるしかないんだ。……クソっ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 四つの巻物と本の解読で段々と力を身につけだした雪翔。 狐の国で保護されながら、五つ目の巻物を持つ九堂の居所をつかみ、自身を鍵とする場所に辿り着けるのか! 四社の狐に天狐が大集結。 第七弾始動! ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。

魔王の残影 ~信長の孫 織田秀信物語~

古道 庵
歴史・時代
「母を、自由を、そして名前すらも奪われた。それでも俺は――」 天正十年、第六天魔王・織田信長は本能寺と共に炎の中へと消えた―― 信長とその嫡男・信忠がこの世を去り、残されたのはまだ三歳の童、三法師。 清須会議の場で、豊臣秀吉によって織田家の後継とされ、後に名を「秀信」と改められる。 母と引き裂かれ、笑顔の裏に冷たい眼を光らせる秀吉に怯えながらも、少年は岐阜城主として時代の奔流に投げ込まれていく。 自身の存在に疑問を抱き、葛藤に苦悶する日々。 友と呼べる存在との出会い。 己だけが見える、祖父・信長の亡霊。 名すらも奪われた絶望。 そして太閤秀吉の死去。 日ノ本が二つに割れる戦国の世の終焉。天下分け目の関ヶ原。 織田秀信は二十一歳という若さで、歴史の節目の大舞台に立つ。 関ヶ原の戦いの前日譚とも言える「岐阜城の戦い」 福島正則、池田照政(輝政)、井伊直政、本田忠勝、細川忠興、山内一豊、藤堂高虎、京極高知、黒田長政……名だたる猛将・名将の大軍勢を前に、織田秀信はたったの一国一城のみで相対する。 「魔王」の血を受け継ぐ青年は何を望み、何を得るのか。 血に、時代に、翻弄され続けた織田秀信の、静かなる戦いの物語。 ※史実をベースにしておりますが、この物語は創作です。 ※時代考証については正確ではないので齟齬が生じている部分も含みます。また、口調についても現代に寄せておりますのでご了承ください。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...