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第一話 ある老人の死
その3
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納得いかないマキが黙って静かになり、エレベーターの駆動音だけが鳴り響く。
「そう不貞腐れるな。結果的につきまとい事案は解決したし、空き巣被害も同一犯、しかも窃盗サイト関係者だったんだ。それを逮捕したからウチは大金星だよ」
そういうクロも納得してなかった。それらはすべてミドウのおかげともいえるからだ。
※ ※ ※ ※ ※
1階に着き扉が開く。外で待っていた男が道を譲り、クロ達が降りるとそそくさと乗り込み急いで扉を閉める。ふとクロは足を止める。
「どうかしましたか」
「いますれ違った男、見覚えがある気がするが誰だったかな」
クロは記憶をたどりながらロビーを通り抜けそこに出ようとする。その時ちらりと壁にかけられた大きな絵画を見て思い出す。
「思い出した、本町通りにある画廊の画商だ」
「画商って……ああ、割田内外事件のときの。弘美さん、どうしてますかねぇ」
介護施設に入ることになったのは知ってるが、何処なのか、それに誰が面倒みるんだろうとマキは心配になる。
「マキくん、もう事件は手を離れたんだ。あまり気にするとミドウみたいになるぞ」
クロ自身、自分に言い聞かせるようにマキに忠告した。
※ ※ ※ ※ ※
壱ノ宮署に戻り、ミツ以外のメンバーにミドウから聞き取った話を伝える。
「その羽振りのいい臨時雇いは伊和見で間違いないでしょう。こちらの取り調べでもそのようなことを言ってます」
カドマがタマととった調書に目を通しながらこたえる。
「伊和見は金尾の正体を知ってたのか」
「ええ、そうです。金尾の工務店は親から受け継いで昔ながらのやり方でやってたけど、年々仕事が減ってきた。理由は親の代からの取引先が高齢でなおかつ跡取りがいなかったので会社をたたみ、仕事のもらい先がなくなったからだそうです。
このままではダメだと、ファックスとケータイしか使ったことなかった金尾が一念発起してパソコンを覚えインターネットをはじめたそうです」
「伊和見がそう言ったのか」
「はい。伊和見は彼方此方で窃盗を繰り返しながら流れで仕事をしてたので、すでに窃盗サイトを利用してました」
「するとそこで金尾と知り合ったのか」
「結果的にはそうなるんですが、ここでの聴取と本部での聴取を──ミッツ先輩の報告ですが──合わせると、金尾にはハッカーの才能があったらしくたちまちやり方を覚えてダークウェブに出入りするようになり、そこで窃盗サイトのマニュアルを買ったそうです」
「そんなものまで売ってるのか」
「らしいですね。ミッツ先輩は仕事が増えたって嘆いてました」
にやりとカドマが笑うと、クロはふんと鼻を鳴らす。
「どうせ本部勤めになるんだ、そのまま居ればいいだろうに」
タマとの人間関係のせいでポンコツ扱いされているが、記憶力や分析能力そして高い成長性、ミツはいずれ本部の内勤で昇進するだろうとクロは見積もっていた。
「それで、金尾たちはどうやって知り合ったんだ」
話を総合するとこうだという。
金尾がマニュアルをもとに、独りで空き巣をやり成功したのに味をしめて何度もして金回りがよくなる。
最初は店の運営資金として使っていたが、余裕が出てきたので遊びに使いはじめた。となると出費は無制限となるので当然またカネが足りなくなる。
そこで当時の金尾の親ネズミ的なリーダーに誘われ、数人で組んで大仕事をやることになった。そこで伊和見と出会ったという。
表の仕事で何度か会って顔見知りのふたりは、それ以後は組んで裏稼業をやるようになった。
そして金尾はクミと出会い溺れて貢ぐようになった。なのでまたしてもカネが足りなくなる。
そこで親ネズミとなって儲けを増やそうとし、その初日がミドウが罠として用意した喫茶店を狙うことだった。
「ということは伊和見は現場主任役ということか」
「そうです。表の仕事でも監督が金尾、現場主任が伊和見だったからやりやすかったと言ってます」
「よく吐いたな」
「タマのおかげです。あんまり幸せでない人生をおくってたらしく、タマの涙ながらの説諭でボロ泣きして心をひらいてくれました」
カドマの言葉に、ふふんと得意顔となりマキにドヤ顔をする。
「ま、女にはできない芸当かな」
「…………」
悔しいが結局ミドウにふりまわされただけの身としては、返す言葉はなかった。
それを知ってか知らずか、クロはいつもの独り言をはじめる。
「金尾がカネに困った理由は仕事が減ったから。それを埋め合わせるためにネットをはじめる、なぜか?
本業を立て直すため新機軸を探すためだ。それはいい。そしてミツと同じくパソコン関係の才能があった。ならば商売替えすれば──ああ、従業員がいるからそれはできなかったか。
ホームページや同業ネットワークサイトをはじめてもすぐに仕事に結びつかない、時間はある、パソコンがある、だからダークウェブに繋げるほどの腕になる。そこで窃盗サイトと出会ってしまったか。
最初は独りでということは、まだ良心の呵責があったのだろう。悪いとは知りつつもというやつだな。そして良心がマヒしてくる、なぜか?
失敗しなかったのと従業員にカネを渡せたからだ。ロビンフッド症候群というやつか。
そして気づけば泥沼に嵌って抜け出せなくなり、追加としてオンナにも嵌ったということか」
ここでクロはため息をつく。
「そう不貞腐れるな。結果的につきまとい事案は解決したし、空き巣被害も同一犯、しかも窃盗サイト関係者だったんだ。それを逮捕したからウチは大金星だよ」
そういうクロも納得してなかった。それらはすべてミドウのおかげともいえるからだ。
※ ※ ※ ※ ※
1階に着き扉が開く。外で待っていた男が道を譲り、クロ達が降りるとそそくさと乗り込み急いで扉を閉める。ふとクロは足を止める。
「どうかしましたか」
「いますれ違った男、見覚えがある気がするが誰だったかな」
クロは記憶をたどりながらロビーを通り抜けそこに出ようとする。その時ちらりと壁にかけられた大きな絵画を見て思い出す。
「思い出した、本町通りにある画廊の画商だ」
「画商って……ああ、割田内外事件のときの。弘美さん、どうしてますかねぇ」
介護施設に入ることになったのは知ってるが、何処なのか、それに誰が面倒みるんだろうとマキは心配になる。
「マキくん、もう事件は手を離れたんだ。あまり気にするとミドウみたいになるぞ」
クロ自身、自分に言い聞かせるようにマキに忠告した。
※ ※ ※ ※ ※
壱ノ宮署に戻り、ミツ以外のメンバーにミドウから聞き取った話を伝える。
「その羽振りのいい臨時雇いは伊和見で間違いないでしょう。こちらの取り調べでもそのようなことを言ってます」
カドマがタマととった調書に目を通しながらこたえる。
「伊和見は金尾の正体を知ってたのか」
「ええ、そうです。金尾の工務店は親から受け継いで昔ながらのやり方でやってたけど、年々仕事が減ってきた。理由は親の代からの取引先が高齢でなおかつ跡取りがいなかったので会社をたたみ、仕事のもらい先がなくなったからだそうです。
このままではダメだと、ファックスとケータイしか使ったことなかった金尾が一念発起してパソコンを覚えインターネットをはじめたそうです」
「伊和見がそう言ったのか」
「はい。伊和見は彼方此方で窃盗を繰り返しながら流れで仕事をしてたので、すでに窃盗サイトを利用してました」
「するとそこで金尾と知り合ったのか」
「結果的にはそうなるんですが、ここでの聴取と本部での聴取を──ミッツ先輩の報告ですが──合わせると、金尾にはハッカーの才能があったらしくたちまちやり方を覚えてダークウェブに出入りするようになり、そこで窃盗サイトのマニュアルを買ったそうです」
「そんなものまで売ってるのか」
「らしいですね。ミッツ先輩は仕事が増えたって嘆いてました」
にやりとカドマが笑うと、クロはふんと鼻を鳴らす。
「どうせ本部勤めになるんだ、そのまま居ればいいだろうに」
タマとの人間関係のせいでポンコツ扱いされているが、記憶力や分析能力そして高い成長性、ミツはいずれ本部の内勤で昇進するだろうとクロは見積もっていた。
「それで、金尾たちはどうやって知り合ったんだ」
話を総合するとこうだという。
金尾がマニュアルをもとに、独りで空き巣をやり成功したのに味をしめて何度もして金回りがよくなる。
最初は店の運営資金として使っていたが、余裕が出てきたので遊びに使いはじめた。となると出費は無制限となるので当然またカネが足りなくなる。
そこで当時の金尾の親ネズミ的なリーダーに誘われ、数人で組んで大仕事をやることになった。そこで伊和見と出会ったという。
表の仕事で何度か会って顔見知りのふたりは、それ以後は組んで裏稼業をやるようになった。
そして金尾はクミと出会い溺れて貢ぐようになった。なのでまたしてもカネが足りなくなる。
そこで親ネズミとなって儲けを増やそうとし、その初日がミドウが罠として用意した喫茶店を狙うことだった。
「ということは伊和見は現場主任役ということか」
「そうです。表の仕事でも監督が金尾、現場主任が伊和見だったからやりやすかったと言ってます」
「よく吐いたな」
「タマのおかげです。あんまり幸せでない人生をおくってたらしく、タマの涙ながらの説諭でボロ泣きして心をひらいてくれました」
カドマの言葉に、ふふんと得意顔となりマキにドヤ顔をする。
「ま、女にはできない芸当かな」
「…………」
悔しいが結局ミドウにふりまわされただけの身としては、返す言葉はなかった。
それを知ってか知らずか、クロはいつもの独り言をはじめる。
「金尾がカネに困った理由は仕事が減ったから。それを埋め合わせるためにネットをはじめる、なぜか?
本業を立て直すため新機軸を探すためだ。それはいい。そしてミツと同じくパソコン関係の才能があった。ならば商売替えすれば──ああ、従業員がいるからそれはできなかったか。
ホームページや同業ネットワークサイトをはじめてもすぐに仕事に結びつかない、時間はある、パソコンがある、だからダークウェブに繋げるほどの腕になる。そこで窃盗サイトと出会ってしまったか。
最初は独りでということは、まだ良心の呵責があったのだろう。悪いとは知りつつもというやつだな。そして良心がマヒしてくる、なぜか?
失敗しなかったのと従業員にカネを渡せたからだ。ロビンフッド症候群というやつか。
そして気づけば泥沼に嵌って抜け出せなくなり、追加としてオンナにも嵌ったということか」
ここでクロはため息をつく。
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