愛しのお兄ちゃん

kinmokusei

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お兄ちゃんと聖夜さんの関係

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お兄ちゃんは任せろって言ってたけど。


美春にはあたしが直接誤解を解きたいと思った。


涙も枯れ、お兄ちゃんに当たり散らし、出た答えがそれだった。


お兄ちゃんは悪くない。


あたしが招いたことなんだから。


次の日。


あたしは泣きはらして、ひどい顔をしていたけれど。


聖夜さんに直接見合いの断りの電話を入れることを思いついた。


電話ならきっと言える。


あの有無を言わさせないような鋭い視線も、電話なら向けられずにすむ。


一言言うだけだ。


お見合いはお断りしますって。


あたしは携帯を手に持って、聖夜さんに電話をかけた。


少しの緊張。


でも。


もう流されない。


電話をかけると聖夜さんはすぐに出た。


『もしもし?』


あたしは名前も何の前置きもせずただ言った。


『お見合いの件お断りします!!』


何か話したら言えなくなるのは目に見えていたから。


『あー。そのことね。昨日小野寺から電話あったよ。かなり怒ってね。』


え。


『藤堂グループの令嬢との見合い話があったのバレてたよ。何で知ってるのかわからないけど。でも、俺は、、、』


『あたしは聖夜さんは最低だと思うので。これで失礼します!!』


あたしは聖夜さんの言葉を遮り、電話を切った。






その後、何回も聖夜さんから着信があったけど、あたしは出なかった。


あたしも悪いけれど、聖夜さんだって悪いんだから!


美春に会いに行こう。


きっと会えないけど。


あたしは急に思い立って、美春の家へと向かった。



ん?


あたしは途中で思いもかけない2人を見かけた。


お兄ちゃんに聖夜さん!?


これはつけるしかないでしょう?


あたしはそっと2人の後を追いかけた。


何話してるのかなぁ?


なんだか笑い合ってるみたい。


お兄ちゃんめ!!


聖夜さんのことどうにかしてくれるんじゃなかったの?


あんなに楽しそうに笑ってる。


あたしはなんだか腹が立って。


でも。


その後現れた人物にあたしは驚くことになる。


美春??


そう。


美春が現れたのだ。


少し痩せたかな?


このスリーショットは何?


どうやって美春を呼び出した訳?


やっぱりお兄ちゃんってすごい。


あたしはその3人を固唾を飲んで見ていた。






あたしはそっと3人に近づく。


「、、、だからかんなは悪気があった訳じゃないんだ。」


お兄ちゃんの声よね?


ナイス!!


美春に説明してくれたのね?


「聖夜も俺のためにやってくれただけだから。ま、余計なお世話なんだけどな。だいたいかんなに男がいる訳ないって俺は言ったんだ。それを聖夜が確かめるって見合いの話を持ち出した訳。な?」


「そう。でも俺かなり嫌われたみたいだな。」


聖夜さんは苦笑い。


「かんなはおせっかいなのよねー。で?電話に出ないんだ?」


美春は笑っている。


何?


どういうこと?


「せっかく会ってあげようと思ったのにね。小野寺さんも早く素直にならないと。聖夜さんは心配しているのよ?何のために神崎グループの養子になったのよ?かんなにずっと会いたかったんでしょう?」


え、、、?


「いや、まさか兄として会うことになるとは思わなかったから。」


「小野寺のことも、俺のことも忘れているようだった。藤堂さんは覚えていてくれたのにね。」


聖夜さんの言葉にあたしは驚く。


美春はお兄ちゃんや聖夜さんと昔からの知り合い?!


しかもあたしも言葉の様子からして知り合いみたいな感じだ。


あたしは考え込んでしまったのだった。






「まっ、聖夜とはマブダチだからな。藤堂さんも協力してくれてありがとう。」


協力?


あたしはそこで初めて状況がのみこめた。


(お兄ちゃん、あたしを騙したんだ!!)


つまりは美春と連絡が取れなくなったのも、聖夜さんとの見合いの話も、お兄ちゃんがあたしに男がいないか確かめるためだったのよ!


藤堂グループと神崎グループの仲も大丈夫なのよ!


あたしは頭に血が上り、3人の前に仁王立ちした。


「お兄ちゃん!!」


「え?」


3人はとても驚いたようだたったが、、、。


そんなことはどうでもいい。


「ひどいじゃない!!あたしを騙したわね?美春と聖夜さんまで!あたし、すっごい悩んだんだから!!」


それなのにお兄ちゃんは。


「かんな、、、。今の話聞いてたのか?」


真っ赤な顔のお兄ちゃん。


それをニヤニヤしながら見てるのは美春よ。


聖夜さんはニコニコしてる。


そして美春が言った。


「かんな?久しぶり。思い出した?」


え。


思い出す?


あたしは目が点になった。






「藤堂さん!!いいから!」


何よ?


なんでそんなに慌ててるのよ?


「お兄ちゃん?まーだあたしに隠してることがあるの?」


「ね、ねーよ!」


「どもってる。何隠してるのよ?」


お兄ちゃんはいつもと違って真っ赤になって慌てていた。


(相当やばいことを隠しているわね?)


「お兄ちゃん!!」


「もういいじゃない。かんな。」


あたしがお兄ちゃんを問い詰めていると、美春が言った。


「ごめんね。かんな。」


久しぶりの美春の笑顔。


あたしは、ちょっとうるっときてしまい、お兄ちゃんの問い詰めはそこで終わったのだった。


「みはるー!!」


「かんなー!!」


久しぶりの再会に、あたしたちは周りも気にせず抱き合った。


「どうしてた?あたしもうダメかと思ってたよー。」


「ごめんね。かんな。あたしも寂しかった。かんながどれだけ大切な友達か、思い知ったよー。」


「あたしだって、、、」


いつまでも同じことを言い合うあたしたちを、お兄ちゃんと聖夜さんは、苦笑いして見ていたのだった。






「え?聖夜さんとお兄ちゃんって同じ年じゃないの?」


「そんな変わらないよ。2つ違い。だから藤堂さん達より俺は一個上。」


いよいよ分からなくなった。


お兄ちゃんと聖夜さんの関係。


そして美春とお兄ちゃんと聖夜さんの関係。


知り合いかどうか聞いても、はぐらかされるだけ。


なんかやじゃない?


美春はあたしの大切な友達なのよ?


それがあたしを除いたこの3人。


仲が良いのよ。


「あ。藤堂さん?俺のことはしゅうって呼んで。フルネーム織戸シュウって言うの言ったよね?」


「だったら聖夜さんもあたしを美春って呼ぶこと!」


「それは、、、」


「いいじゃん。聖夜は聖夜で。」


なんて笑いながら話してるのよ?


なんか1人だけ浮いているみたいじゃない?


だいたい聖夜さんとお兄ちゃんってタイプ全然違うのよ。


どうして仲が良くなったんだろ?


2人とも自分から仲良くなろうとするタイプでもないし。


謎だ。






「じゃあ、また。」


「うん、またね。」


驚いたことに聖夜さんは美春の家に入って行く。


見合いは成功してるってこと?


あたしとの見合いは本当に偽装だったのであった。


「お兄ちゃん?」


「えっ、あ、ああ何?」


お兄ちゃんは2人きりになると途端におとなしくなった。


きっと聞かれるのが嫌なんだ。


あたしはひとつため息をつき、条件を出した。


「今回の件、もう何も聞かないからあたしを食事に連れて行って?お腹空いたわ。今エミを呼ぶから。」


あたしが、携帯を取り出し、エミを呼ぼうとすると。


「待てよ。美味しい飯屋が近くにあるんだ。ここから歩いてすぐだから。」


「え。」


あたしは嫌な予感がした。



「ここ?」


「ああ。」


あたしはお兄ちゃんと着いた店を交互にガン見した。


来たのは行列こそ出来てるけど。


大衆食堂だった。


(やられた、、、)


お兄ちゃんに豪華イタリアンレストランを期待したあたしが間違っていたのだった。






「もちろん割り勘なのよね?」


店に入り、あたしは言った。


「お?分かってきたな?金あるんだろ?誘ったのかんなだし。」


「えぇ。」


よかった。


持って来ておいて。


「なんか怒ってないか?」


「別に。」


まったく。


ケチなのはあたしのためなのよね?


あたしは自分に言い聞かせる。


あたしが素敵なレディになるためにこの店を選んだのよね?


って。


ふざけんじゃないわよ!!


何が悲しくて工事のオッチャンたちと一緒に食べなきゃならないのよ!


周りを見回すと工事のオッチャンばかり。


もちろんカウンターに座るお兄ちゃん。


あたしの目はすわっていた。


「ここうまいんだぜ?チャーハンセットね?俺。」


「あいよ!」


いかにもーな食堂のおばちゃん。



「かんなは?」


「あたしもそれで。」


「おばさん、チャーハンセットもうひとつ!」


「あいよ!」


あたしはもう何が起きても驚かないだろうと心の中で思ったのだった。






その夜。


「結構美味かっただろ?あの食堂。」


「え?えぇ。そうね。」


意外にも美味しかったのは確か。


だけど、それはそれ、これはこれ。


神崎グループの令嬢であるあたしが、大衆食堂でご飯を食べたなんて知ったら、お父様ひっくり返って、寝込むんじゃないかしら?



「家で高級レストランみたいな食事ばっかりだろ?たまにはああいう店の飯が食いたくなるんじゃないかと思ってさ。」


「えぇ。」


いや、美味しかったけど、チェーン店のラーメン屋とか食堂は勘弁して欲しい。


誰かに見られでもしたら恥ずかしいし。


とにかくお兄ちゃんと外食はもうしないようにしよう!


あたしは固く心に誓った。


あ。


そういえば。


「ねぇ?聖夜さんと年2個離れてるのに、どうやって知り合いになったの?確かお兄ちゃんは施設育ちでしょ?
聖夜さんもそうなの?」


「ごほっ!!」


お兄ちゃんがあたしの質問に動揺して咳き込んだ。






「ゲホッ、ゴホッ、いきなりだな?」

お兄ちゃんはむせながら言った。


「美春とも昔からの知り合いみたいだし、、、。でもおかしいのよね?最初は美春お兄ちゃんのことも聖夜さんのことも知り合いみたいな風じゃなかったのに。」


あたしはしきりに首をかしげる。


「聖夜は俺の恩人。ただそれだけだ。」


「ふーん?」


結局、お兄ちゃんと聖夜さんの関係はよく分からなかったわけで。


こうなったら美春に聞くしかないよね?


きっと知ってるはず。



次の日、学校に行ってみると、美春は来ていた。


「みはるー!!おはよう!」


「かんなー!!」


あたしたちはまたハグをした。


いきなり聞くのもなんだけど、、、。


「ねぇ?美春?」


「なーに?」


「聖夜さんなんだけど、、、」


すると美春は最後まで聞かずにあたしの背中をバシバシ叩いて言った。


「やだー!!野暮なこと聞かないでよー!照れるじゃん。」


いや、そうじゃなくて。


あたしはそう思ったが、幸せオーラ全開の美春にそれ以上聞くことが出来なかった。





お兄ちゃんは施設育ちだよね?


いつからだろう?


前にお兄ちゃんをつけた時、お墓があったよね?


だとしたら小さい頃は普通に幼稚園とか行ってたのかな?


あたしのお母様と知り合いなんだからいいところのお坊ちゃんかしら?


聖夜さんも社長令息だって言ってたし。


そういえば聖夜さんあたしの幼稚園の頃のあだ名知ってたのよね?


その頃に何か、、、?


「おい!」


「へ?」


ゴンッ。


「いったぁ!!」


いきなりゲンコツをあたしはくらった。


「やる気がないなら帰れ!コンクールが近いんだ!真剣にやらないなら邪魔なだけだ!!」


「す、すみません。」


くそー。


誰のせいだと思ってるのよ!


ゲンコツの主はお兄ちゃん。


今は社交ダンスの練習中。


コンクールっていったって、あたしが出るわけじゃないのに。


出るのは若葉さんとお兄ちゃん。


「やぁ。ごめんね。小野寺のやつコンクール近くてピリピリしてるから。さぁ、ターンの練習をしようか?」


聖夜さんだった。




美春は遠くで練習していた。


聞くなら今だ。


「あの、、、?」


「なんだい?」


「おに、、、じゃなく、小野寺さんといつから知り合いなんですか?」


「まだ思い出さないんだ?」


ニッコリ笑い聖夜さんは言った。


「え、、、?」


「藤堂さんは、君の幼稚園の頃のあだ名を言ったらすぐ思い出したんだけどね。」


「昔の知り合いですか?」


「ああ。幼稚園一緒。小野寺のやつはもう小学生だったけど泣き虫でね。泣き虫彩ちゃんで思い出さない?」


泣き虫彩ちゃん、、、?




『やーい。泣き虫ー!!』


『やめてよー、うわーん』



ふと昔の記憶がよみがえった。


『本当に彩ちゃんは泣き虫なんだから!小学生でしょ?』


『だってだって』


『しょうがないなー』




「あー!?」


あたしは大声を出した。


「思い出した?」


聖夜さんは声を殺して笑っている。


泣き虫彩ちゃん。


あたしは思い出したのだった。




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