「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです

しーしび

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 次の日、アリーチェは朝一番に王都内にある教会の一つに足を運ぶ。
 その教会は、王都の中でも少し寂れた場所にあって、少し古びた様はどことなく育った村の事を思い出されるものだった。

「アリーチェだ! 」

 小さい子たちがアリーチェに群がった。
 教会には孤児院が併設されていて、教会に頻繁に出入りしているアリーチェは彼らにとっては遊び仲間。
 子どもたちはアリーチェの両手を引っ張りながら、あーだこーだと話し始めた。
 離れたところでこちらの様子を伺う子どもたちがいる。

──また、増えてる

 アリーチェは目を細め彼らを見つめた。
 勇者の魔王討伐で盛り上がっているが、居場所をなくしここまで辿り着いた子が多くいる。
 ここにいるのがその全てではないのもアリーチェはよく知っていた。

「アリーチェーあそぼー」
「ねぇねぇ」
「あのね、この前ね」

 修道女たちがやってきて、彼らをアリーチェから離してくれるまで、アリーチェはされるがままだった。

「いらっしゃいませ、アリーチェ様」

 アリーチェが訪れると、眼鏡をかけた男性が人好きのする笑みを浮かべながら向い入れた。
 ひょろりと背の高い30代半ばのその男は、この教会の神父で、アリーチェと同郷の仲間だった。
 アリーチェがルッツにくっついて王都にやってくる随分前からここで神父をしている。
 性格は、到底神に使えるような清らかなものではない。

「おや、今日は一掃元気がありませんね」

 相変わらず人の感情の機微に目敏い彼は、アリーチェの顔を見ただけで言った。
 ここ半年ぐらい落ち込んでいるアリーチェのことも知っている彼。

「その様子では勇者に会うことができなったのですね」
「逆だよ」

 アリーチェはズカズカと中に入り、使い古された椅子に腰をかける。

「会えたけど、ルッツは王女と結婚するんだって」
「おやおや、それで傷心というわけですか」

 アリーチェの心情を知っているくせに、彼は笑みを崩さない。
 ルッツは腹芸ができないたちだったが、この男はそんなものは朝飯前にやってのける。
 そういう男だと分かっているアリーチェは、半目で彼を睨む。
 けれど、そんなものが彼に通じるわけもない。

「私に当たったところで何もなりませんよ。恨むなら、勇者が帰ってくる前に王都を出なかったご自身を恨んでくださいね。私はちゃんと助言したのに、わざわざ傷付きにいくなんてあなたも変わった趣味をお持ちだ」

 ほれ見たことかと、ほくそ笑む男が腹立たしく、その顔に一発お見舞いしてやりたかったが、アリーチェが村で培った人間としての性でそれを抑える。

「我慢強くなりましたねぇ。あんな青臭い勇者にそこまで惚れ込んでいたとは」

 ため息まじりに男に言われ、アリーチェは小さくなった。
 自分だって彼にここまでのめり込むとは思ってもみなかった。

「なんでわざわざ勇者に会いに行ったのです」
「・・・思い出すかもしれないから」

 アリーチェはボツりと呟いた。
 記憶を無くしたとしても、アリーチェを見てくれればきっと彼は自分を思い出す。
 そう思って、頼み込んで手伝いをさせてもらった。
 けれど、現実はアリーチェが踏み込めないような場所に彼はいて、使用人専用の廊下からアリーチェは一歩も出られなかった。

「住む世界が違うんだって、やっと気づいた」
「前々から分かっていたでしょ? 」

 男は呆れながら言うが、アリーチェは分かっていなかった。
 勇者という存在がそれほどまで遠いものとは、若いアリーチェには理解できていなかった。

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