彼の音色 ~君に恋して音が感情になった~

千莉々(chiriri)

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旅立ち

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あれから数週間がたった。
今日は愁がアメリカへ発つ日だ。

それまで俺と愁は、なるべく一緒にいるように過ごした。
学校でも、休みの日も。
一緒に買い物へ行ったり、一緒に勉強したり。

空港には愁の両親と弟の利人君も来ている。
野上葵生も一緒に行くので、彼女の両親も来ている。
そんな中、俺もいる。

「冬弥さん、寂しいですよね。僕も寂しいです」
利人君が話しかけてきた。
「そうだよね。寂しいよ」
「僕で良かったら、お話相手になりますから」
「え? ありがとう」
利人君って確か小学生だよな。さすが愁の弟だ。

愁は両親と話している。

俺は少し離れて椅子に座った。
すると野上葵生が近づいてきた。

「冬弥君。愁の背中を押してくれてありがとう」
「そんな。野上さんが教えてくれて良かったよ」
「葵生でいいわよ」
「あ、うん」
「私、愁にすごく怒られたの。『葵生のバカー』って……」

「愁が?バカって言うんだ」
「そうよ。ビックリよ。初めて言われたわよ」
俺は想像して笑ってしまった。

「でもね、『冬弥が僕の面倒を一生みてくれるらしいんだ』って
ウキウキで言うのよ。どういう事かしらね」
「あ、まぁ、それには色々と……」

「まぁ、いいわ。愁ってあんな感じじゃない。男女ともに
モテるわよ。私がしっかりと見張っておくから安心して。
だから、あなたも浮気したら承知しないわよ」
「あ、はい。葵生さん。よろしくお願いします」

俺は葵生姉あおいねえさんと呼びたいくらいだった。頼もしいです。

「葵生、冬弥に何話してるの?」
愁がこちらにやってきた。
「何でもないわよ。友達との固い約束よ」
「ふうん。そうなんだ」
「私、パパとママの所に行くわ。じゃあね、冬弥君」
葵生さんは、手を振りながらニッコリ微笑み両親の側に行った。

「葵生さんって、愁のことを大事に思ってくれてるんだな」
「そうなのかなぁ? なんか昔から偉そうでさ。お姉さんかって感じだよ」
「それそれ。俺も葵生姉さんって呼びたいわ」
お互い笑って、沈黙になった。

「冬弥。寂しいよ。けど、せっかく応援してくれたんだし、頑張るよ」
「俺も寂しい。ずっと愁の事を思っているから。俺も受験頑張るよ」
お互い両手を握りしめながら、別れを惜しんだ。

いよいよお別れだ。
愁は葵生さんと並んで進んでいった。
急に振り向き、泣きながら俺の方を見て手を振っている。
アイツ、家族みんながいる前で何やってんだよ。
そして葵生さんに背中を押され、俺の視界から消えていった。
頑張れよ、愁。

行ってしまった……俺、大丈夫かな。
寂しすぎて普通に生きていけるか心配だ。
本当に利人君に話し相手になってもらおうかと考えてしまった。

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