(仮)あの頃〜兄の友人、美しい幼馴染。別れと再会

ピアノ

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夏祭り   美夜と陸、隼人

土塀に囲まれた城下町の中心には、2000年以上続いている神社がある。
真夏の夕方から始まる神社の伝統行事とお祭りは、七日間続く。

夕方になると、太鼓や笛の練習の音、人々が支え持つ、竹と竹がぶつかり合う音が、近くの家々や路地に、流れてくる。
この行事は、1800年以上、毎年続けられていた。

近くの町屋の通りでは、神社のお祭りの季節になると、町内の班長さんは、家々にろうそくを配って歩いた。

このろうそくで、町屋の家々は、玄関に吊り下げた提灯を灯した。
神社の祭事が続く間、夕刻になると、通りには点々と提灯の明かりがともる。

夕闇が降りた境内には、太鼓と掛け声、竹のぶつかり合う音が響き、熱気を帯びてくる。
そして、境内は、見物に来た人々で、いつも埋め尽くされた。

金魚すくいやアイスキャンデー、わたあめなど沢山の夜店も並んで、子供から大人まで、連日のように、夏の夜の日々を楽しんだ。


美夜は、浴衣を着せてもらって、兄の陸と、その友人の隼人と一緒に来ている。


美夜の家は、門前町の表通りにある老舗のお茶屋で、学校からも近かったので、兄は昔から、学校が終わると、隼人を家に連れてきていた。


祖母も子供たちに
「おかえり」
と言って、お茶やお菓子を出してくれる。


陸は、穏やかな優しい性格で、美夜とは仲の良い兄妹だ。

祖母と母は、店の仕事があるし、父の謙介は、朗らかな人物だが、付き合いも多く、あまり家にいない。

美夜は、子供の頃からずっと、兄のあとを、ついてまわった。

だから、その友人の隼人とも一緒にいることが多くなった。

ほっそりして華奢な感じがする兄とは異なり、隼人は剣道の道場にずっと通っていて、上背があって、もっと大人に見えた。

中学生の美夜がついて行っても、隼人は、嫌な顔をしたり、邪魔にすることもなく、淡々とではあるが、対等に接してくれる。


茶舗に来た隼人に、美夜が飲み物を渡したり、小さなことをしてあげると、隼人は美夜を見て、必ず
「ありがとう」
と言ってくれる。

美夜にとって、隼人は兄の親友であり、初めて自分を対等に扱ってくれる年上の異性だった。


「妹が浴衣を着るって大騒ぎだったんだ。朝から」

陸は笑いながら、隼人に言った。

そう言われて、中学生の妹は、わかりやすく赤くなった。
「ふうん」
隼人は、美夜を見た。

そう言えば、陸の妹の感じがいつもと違うのは、浴衣を着て、髪を結えているからだと、その時初めて、隼人は気が付いた。

あまり長くない髪をまとめて、飾りを付けているので、そこから雀というか、小鳥のしっぽのような髪の先が出ていた。


今夜も、沢山の人々で賑わう境内には、いくつか夜店が並んではいるが、例年に比べると、少なくなっている。

戦争で、色々な物が流通しづらくなってきていた。

「アイスキャンディー、食べないか」

隼人が買ってきて、ふたりに渡してくれた。

「ありがとう」

兄妹は礼を言った。

「いつも世話になって、ご馳走になっているのは、俺の方だよ」
隼人が言った。



三人が、境内の祭事を見渡せる、神殿の石段に座って、アイスキャンディーを食べていると、夏祭りに来ている人々の中に、彼らの知り合いがあちこちにいるのが見える。

その中に、一際目立つ2人の姿があった。
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