(仮)あの頃〜兄の友人、美しい幼馴染。別れと再会

ピアノ

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夏祭り   碧伊と和史

境内の群衆の中でも、彼女の姿はすぐに分かった。

始まる頃は明るかったが、日が暮れてすっかり夜の境内の、そこだけ、まだほんのり明るく照らされているようだ。

周りは、浴衣や軽装が多い中、白地のワンピースを着て、帽子を被り、すらりと背の高い彼女がそこにいる。

肩に流れる艶やかな髪、綺麗な白い横顔のせいか、いつも彼女の周りは、同じ場所に居ても、他より少し明るく感じられるのだ。

そして、こうして人目を惹くのも、いつものことだ。

帽子を傾けて、傍らの連れの青年に笑いながら、何か話している。

横を歩いているのは、やはり、すらりとした感じの良い青年だ。

碧伊あおいさんと和史だ)

2人共、垢抜けて輝いているように見えた。

皆んな振り返って、2人を見ている。


(あの2人と、今の自分たち、雰囲気違いすぎだろ)

隼人は思った。

中学生を連れて、神社の石段にすわり、アイスキャンデーを食べているこちら3人と、彼らの雰囲気には、同じ界隈の顔見知りの仲間とは言え、かなり落差がある。

「あーあ、和史はいいな、碧伊さんと一緒で」

陸が、羨ましそうに言った。

陸だけではない。周りの青年たちは、碧伊に憧れていたし、実際、彼女に声をかけた者も沢山いた。

中学生の美夜でさえ、そのことはよく知っている。碧伊さんは、美人で有名なのだ。

「小学校の頃から、よく一緒にいたよな、あのふたり」

碧伊の周りには、彼女に憧れる男の子達がいたが、一緒に歩いている青年は、彼らの中で、彼女と最も親しい間柄だった。
碧伊の家も、この土塀の町の中で、連れの青年の家も近くだった。

2人は幼なじみでもある。

しかし、そればかりでなく、碧伊と和史が仲が良い理由は、何となく、皆んなわかっていた。

「和史って、育ちが良さそうな感じだし、礼儀正しいし、性格もいいもんな」
隼人は、客観的な感想を言った。

「そうなん?」

と、妹の美夜も、話に加わる。

2人は、見た目にも、お似合いだ。

でも、陸兄さんは不服そうだった。

「碧伊さん、うちへ、お茶を買いに来るんだ。だから、時々話はするよ」

「だったら、和史と、特別な約束してるわけではないらしいし、誘ってみたらいいじゃないか」

隼人はこともなげに言う。

美夜も、そう思った。

兄は、どちらかと言えば、男らしいタイプとは言えないが、子供の頃は、

「陸ちゃん、女の子だったら、綺麗だよね」

と言われる、顔立ちだ。

それに、垢抜けてる方だし、優しくて頭がいい。

身内贔屓と言われたらそれまでだが。

「そんな簡単にできたら、苦労しないよ」

と、陸は言った。

その頃、この町の人々が全く知るはずもない、遠いところで起こされ、拡がりつつあった戦争の渦は、このとき祭りに集まった人々をも、次第に大きく巻き込もうとしていた。

でも、ほとんどの人々は、その結末までを予期することもなく、まだ暑い夏の夜を、笑顔で楽しんでいた。
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