(仮)あの頃〜兄の友人、美しい幼馴染。別れと再会

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碧伊の家族

碧伊あおいの母親は、洒落た洋服や立派な着物を碧伊に着せるのは好きだったが、躾にはかなり厳しかった。

妹のみどりより、長女の碧伊に厳しい。門限はもちろん、色々な制約があった。

千代乃姉さんのようになってはいけない、という話は、母からよく聞かされていた。
千代乃姉さんは、母の5人兄弟姉妹の2番目の姉。

千代乃姉さんは、大変美人だった。そして、寄ってきた男とすぐに恋に落ちた。

周囲の反対にもかかわらず、男と駆け落ちのようにして結婚し、最後は酒びたりの生活を送ったという。

そして、碧伊の容姿は、大人になるにつれ、千代乃姉さんにそっくりになったと母は言った。
それも、母が心配して、碧伊に厳しくしている理由のようだった。

そして碧伊には、母にも言っていない秘密があった。

同年代の男の子たちからの、好意やちょっとした揉め事などは、それに比べれば、かわいいものだった。

それは、随分昔からあったように思う。
《綺麗な人形のような女の子》そう言って、触れてくるゴツゴツした手があったような気がする。
時々服の中にも入ってきた。

小さい時のことは、はっきり思い出せない。自覚して思い出せるのは、11、2歳位のとき。
碧伊は、なぜか学校の廊下を走っていた。

出会った担任の男性教師に、急に、絡み取られるように、抱きしめられた。
なぜ?と違和感があった。30代で、既婚者だったのは知っていた。

10代になってからは、色んな場所で、父親やそれ以上の年齢とも言える男からの、あまりにも不躾な視線や言葉に、気味悪さを感じることも多かったが、気にしないように努めていた。

それらは外のことで、忘れることができた。

碧伊の両親は、2人とも再婚同士だった。

2人とも、配偶者を病気で失い、子供が1人ずついた。

2人は遠縁にあたり、皆が心配して、2人の縁談をまとめた。

義父には、碧伊より、8歳年上の男の子がいたので、碧伊には兄ができた。

そのあと、両親には、すぐ妹の翠と弟の良一が生まれた。


兄は無口で、碧伊を見下した感じで、碧伊は苦手だった。
でも、遠方の大学に行っていたので、あまり関わることはなかったが、ある夏休み兄が帰省してきた。

夜、自分の部屋で寝ていた碧伊は、微かな物音に気付いた。
夏なので、風が通るように窓を開け、扇風機を回していた。

部屋の中に誰かが入ってくる。

母でも妹や弟でもない。

帰省している兄だった。

兄は片手をポケットに入れたまま、薄い寝巻1枚で寝ている碧伊を、眺めているようだ。

「兄さん」

と、言おうとしたが、声が出ない。

緊張して、脂汗が出そうだ。
碧伊は寝たふりをしているうちに、兄が出ていってくれることを願った。

しばらくして、兄は出ていった。

碧伊は、それを、母にも誰にも言えなかった。

家族の仲が気まずくなると思った。

兄のように、夜中に部屋に入ってくることなどないけれど、兄と同じ視線を義父にも感じることがあった。


兄がまた夜、自分の部屋に来るかもしれないと思ったので、

「昼間、部屋に大きな蜘蛛がいたの。居なくなるまで、翠ちゃんの所で寝かせて」

と、妹に言い、兄がいる間は、妹と眠ることにした。

家では、常に妹や弟といるように心がけた。


学校時代から、碧伊に告白して、寂しそうに去って行った少年たちには心が痛み、卑猥な大人たちには嫌悪を感じ、千代乃姉さんと碧伊を重ね合わせる母には息苦しさを感じ、兄のことでは、家族の中にいても不安だった。

そうしたことは、少しずつ碧伊の心を固くさせ、それに連れて、顔の表情筋まで硬くなっていくような気がした。

美しいけれど、少し表情の少ない、そんな娘に碧伊はなっていた。



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