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大火
そんなある日、この町に大きな出来事が起こった。
一軒の家から出火した火が、瞬く間に町の中心部に燃え広がっていった。
昔からの木造の家と店が立ち並んだ門前町は、ちょうど海岸から吹いている風を受けて、火の手が早く回ってしまったのだ。
他の店の造りと同じく、桜茶舗でも、正面の店舗の奥に、住居や倉庫がならんでいる。
昼間なので、美夜は学校、父も、陸も出かけていて、店兼家には、祖母と母が居るだけだった。
火の回りはすごく早く、母と祖母は外が騒がしいので、表に出てやっと知るような有様だった。
「遠くに見えた火の手が、どんどん近くなった。早く避難できるよう、支度しないと」
人々が、そうしたことを言っているので、2人は慌てて家に入り、思いつくものを風呂敷に包み始めた。
貴重品を包んだものの、家族5人の衣類や商品など、二人ですぐまとめられるものではない。
外では、ますます人々の騒ぐ声が大きくなる。
祖母は、急いだ拍子に、敷居につまづき、転んでしまった。
その時、表にトラックが止まる音がして、ベンさんとウィルが凄い勢いで、飛び込んできた、と母が後で、皆に語った。
ベンさんと、ウィルは、英語と日本語で叫びながら入ってきて、転んでいる祖母を、ウィルが荷物ごと抱えて外に運んだ。
ベンさんも、早く、早くと言って、母にいちいち聞いている間もないので、奥に入って、各部屋から行李や箱や、箪笥の引き出しごと、運び出した。
表にはトラックが停めてあり、二人は、どんどんそれに積んでいったそうだ。
母は、圧倒されながらも、心強く思って、必要なものをまとめることができたという。
外に出ると、火はすでに見えるところまで迫っており、煙と異臭がした。
二人の他にも、進駐軍の人々が、救援に来ていたのて、あちこちに彼らの姿と、トラックがあった。
そうして、町中を焼き尽くした火は、未明にやっと鎮火した。
石造りの銀行の柱だけ残して、あとは焼け野原になっていた。
しかし、進駐軍が救援活動をしてくれたおかげで、死者はなく、避難することができた。
しかも、戦争を乗り越えてきた人々は、火事に悲嘆することもなく、直ちに町の再建に取りかかったので、急速に元の町以上に、生まれ変わった。
それまでは、近くの母方の祖母の家に、美夜たちは避難していたが、桜茶舗も新しくできたので、再び営業を始めた。
町の人々や、同じ商店の人々が共に再建してゆくので、結束も深まり、助け合うことが励みになっていた。
戦争から国が復興するのと時を同じくして、この町にも、新たな活気が生まれていた。
皆が、新たな時代を迎えようとしていた。
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