(仮)あの頃〜兄の友人、美しい幼馴染。別れと再会

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お茶会

春乃は今日、この町のお屋敷のひとつで開かれる茶会に出席していた。

もともと武家の屋敷だったそうで、大きな池のある庭園に面した、大広間に茶席が設けられていた。

大広間には、ズラリと和服姿の人々が、正座している。

お茶を立てるのは1人で、正客に出すのだから、他の人々へは、別にお茶を点てて、ひとつずつ持ってゆく。

そのお運びをするのが、春乃たちのような若い弟子で、皆華やかな着物を着ている。

そして今、大広間で、お客たちの前で、お茶を点てている美人は、碧伊さんという人。

黒地に朱色や金銀の縁取りの紋様が描かれた着物が、大人っぽくて艶やかだ。

春乃より、もっと先輩で、お茶を通じて、初めて知り合った。

見惚れてしまう。春乃は思った。

しかし、碧伊さんが参加するのは今回が最後で、再来週あたりには結婚して名古屋に行くというのは、前回集まりがあったときに聞いている。
弟子仲間でお祝いを包んだからだ。

そしてそれ以前に、碧伊さんが、お見合いのとき、メープルホテルの個室で会食をしてくれたのも知っていた。

春乃の母は、メープルホテルを、ちょっとした宿泊施設としか考えていなかったようだが、実際に始めてみると、食事やカフェ、会合など、人々の利用は多岐にわたっていたのだ。

相手の人は見なかったけれど、碧伊さんに似合う、きっと素敵な人なのだろう。

さて、池の反対側にある、茶室では、男性陣による男点前の茶席が行われている。

そちらでは、学友の美夜の兄が、手伝っているという。
隣の市にある女子大に、今は春乃も美夜も通っている。

この町では、地区が違ったので、2人は見ず知らずだったが、大学に入って同じ市から来ていることを知り、友人になった。

春乃は、交替で休憩をもらい、行ってみた。

男性による点前は、格調高い感じで、とても素敵だと春乃は思った。

ちょうど、美夜の兄の陸が、点前をしていて、美夜は、進駐軍の人と、客席に座っていた。

多分、あれがよく話に聞くベンさんね、と思った。
美夜のうちは茶舗なので、陸はこうした茶会にも参加しているのだろう。

春乃の姿の気付いた美夜が、にっこり笑って、こっちへやって来た。

「美夜ちゃんのお兄さん、よく似合ってるね。やっぱりお茶の仕事をしてるから、手伝ってるの?」

「そう。こういう大きなお茶会は、男の人の手も必要で、当日のお点前だけじゃなく、準備も、何日も前からずっとしてたよ」


「今度、先輩が2人、結婚して辞めてしまうので、私もお手伝いが増えそう」
春乃は言った。

「そうなの」

「1人は、今日お点前をしていた碧伊さん。結婚して名古屋の方に行っちゃうの」

「えっ?」
美夜は驚いたようだった。

「美夜ちゃん知らなかった?」

「うん。でも多分、がっかりする人沢山いるね」
と言って、2人は笑った。

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