(仮)あの頃〜兄の友人、美しい幼馴染。別れと再会

ピアノ

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華やかな日々


憲兵に注意された、メープルホテルのサロンにあるピアノも、戦争が終わり、白い布を外され、演奏したい人は弾けるようになった。

時々、ちょっとした定例音楽会も開かれたりして、メープルホテルは賑やかになっていた。


春乃は、受付や、給仕の手伝いの他、そうした催しものをまとめる担当を母から頼まれていた。

ある日、春乃の父母とも知人である、海産物の卸会社の社長の家族が食事に訪れていた。

夫妻と、その母親だと思われる高齢の女性と、30歳手前くらいの男性だった。

「やっと、シベリアに抑留されていた長男が、戻ってきて、療養して元気になって。会社の仕事も主人から引き継げるようになったので、皆で久しぶりに食事に来ました」

「よかったですね、ほんとうに」
母が答えた。

「ただ、左手に少し後遺症が残っていますが」
その男性は言った。


春乃が、料理を運ぶと、

「こちらは春乃さん。このホテルのお嬢さんよ」

と、夫人は、横にいる息子らしきその男性に、春乃のことを紹介した。

「こんにちは」

「よろしくお願いします」

その男の人は、少し痩せて、彫りの深い顔をしていて、そのせいか深い眼差しに見える目で、にっこり笑った。

彼らが帰るとき、春乃は、他の客同様に、その夫妻と男性にも、次の催しである音楽会の案内を渡して、

「ぜひいらしてください」
と言った。

「久しぶりだな。こういうの」

その男性は、早速申し込んでくれた。

芳名帳に、住所と名前も記入してもらう。
また、次の案内を送るための、お客様リストでもある。

それから、その人・・水島さんは、特別に仕事や用事がない限り、春乃が案内すると、来てくれるようになった。

水島さんは、春乃が挨拶をすると、いつも穏やかに、にっこり微笑んだ。

長い間娯楽のない時代が続いた後だったので、人々は、そうした催しを欲していることもあって、毎回盛況だった。

ただ、企画から開催までの期間が短かったり、内容によっては、集まりが少ないこともある。

ちょうどそんな折、今回参加してくれていた水島に、春乃は、翌月の案内を渡した。

「今日はありがとうございます。楽しんでいただけましたか?

あの、次のはどうでしょうか? ご家族の方もご一緒に」

「ああ、会社にも届いていましたね。次回はちょっと来れないかもしれません」
「・・・・・」

「・・・は? どうかしましたか?」

春乃のがっかりした気持ちが顔に出ていたらしく、水島が尋ねた。

「次回のは、来られる方が少なくて….」
春乃は、思わず本当のことを言ってしまった。

水島はククッと笑って言った。
「珍しく苦戦ですね。」

「僕は来れないけど、誰かにあげましょう。従業員にでも」
そして、4、5枚チケットを買ってくれた。

それからは、複数枚頼んでくれることも多くなった。

水島の姿がない時でも、会社の人達らしきグループが、楽しそうにやってきたり、水島家の家族の人たちが来たりしていた。

水島が、事務員の人や、祖母を同伴することもある。
春乃は、水島の心遣いに感謝していた。
水島は、春乃に、妹のように、微笑みかけてくれる。

そうした集まりでは、お互いに顔見知りの人々もいる。

水島も、復員してきて時が経つと、仕事もしているし、色々な人から声をかけられて、近況の話などしている様子だった。


そんな時、ある催しで、水島はドレスアップをした女性を伴い、二人で参加した。

食事付きだったので、二人は向かい合って席についていた。


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