(仮)あの頃〜兄の友人、美しい幼馴染。別れと再会

ピアノ

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婚約者

水島家では、ちょっとしたトラブルに巻き込まれていた。

「とにかく、先方のお嬢さんが、ずっと泣いてるんですって。」

夫人が夫と息子に話している。

近くに嫁いでいる姉も遊びに来ていて、水島家のダイニングで、母がお茶を淹れている。

「はあ・・・」

「そう言っても、仕方ないな。見合いというのは、どちらかが断ることもあるわけだし。それは、お互い様。どうしても、一度会ってみてほしい、と言われたから、顔を立てて会ったのだから」

夫が言っている。

水島は、父の言ったように、どうしても一度会ってほしいと、父の知人に頼まれて、その娘に会った。

会いもせずに断るなんて、と散々言われたのだ。

ちょうど、メープルホテルでコース料理と弦楽四重奏のコンサートの券を、いつものように、春乃に勧められて購入していたので、それに招待することにした。

そして、それで終わりのつもりだったのだ。
真面目な娘さんだったが、話もあまり、弾まなかったと思うし、何が楽しかったのか、水島にはさっぱりわからなかった。

「そのお嬢さんが言うには、最初は緊張して、話も弾まなかったけれど、終わり頃には、あなたが楽しそうだったので、うまくゆくのかと思って喜んでたんですって」

「え? ああ、そうか・・・自分では気づかなかったな」

水島は、終わり頃、春乃がデザートを持ってきた時のことを思い出していた。

「でもあなたが、こんなにモテるなんて知らなかった。だって、学生時代はそんな話なかったじゃないの」

夫人が言った。

「だって、あの頃はずっと、麗しの天女様が、そばにいたもの。他の女の子は、気遅れしてたのよ、きっと」

姉が言った。

「それで、実は今度、見合いを段取りして欲しいんだ」

水島は、父に言った。

「ええっ?」

皆驚いて、彼を見た。



あの催しの日から、約1か月後に、水島さんから、春乃へ、お見合いの申し出があった。

日にちが決まって、今日春乃は、着物を着て座っている。
場所は、元華族の別邸だった屋敷跡の料亭で、広い庭園が広がっていた。

緊張して座る春乃に、水島が可笑しそうに微笑んだ。

水島家の人々と、春乃の両親は顔見知りなので、和気あいあいと食事をして、2人を残し帰って行ったところだった。


いつも、春乃はホテルの制服を着て、催し担当係として接していたので、このように、お互いのために、仕事に関係なく向かい合っているのは初めてだ。

「水島さん、今日はお見合いの席を本当に設けていただいて。どうもありがとうございます」

「こちらこそ。来てくれてありがとう。
でも、普段は学生なんだね。知らなかった」

「はい、休みの日にホテルを手伝ってるんです。催し物があるのは、大体月に一回で、土曜日の午後と日曜日、それと夜だから。夏休みもありますし」

「いつもすごく熱心に、頑張ってるから、本業なのかと思ってたよ」

「ホテルは、母が始めたんですけど、私も手伝わされて。でもやってみると、色んな人に会えて、楽しいんです」

2人は広い庭園に出た。

「着物も、よく似合ってる」

水島が言った。

「フフ・・・私、お茶会のお手伝いにも行ってるので、慣れているかもしれません。下っ端ですけど」

春乃は、隣の水島を見上げた。

いつまでも、そのそばに居たい。兄やその友人達より、ずっと大人で。

水島さんは、今日、快く、会ってくれた。嫌われてはいないだろう。

春乃が誘った、催し物にもお見合いにも、こうして付き合ってくれた。
いつも微笑んで、励ましてもらった。

でも、このあとは、結婚というものに向き合う相手としてまで、見てくれるかどうかはわからない。

好感は持っているけど、やっぱり結婚までは・・・と、思っているのかな。

《可愛いお嬢さんですが・・・》
《まだ学生さんなので・・・》

その場ですぐ断るのは失礼なので、後日両親のもとに、やんわり、よくわからない、お断りの返事が届くのかな。

私も、お見合いを申し込んで、自分の気持ちは伝えた。
できることはした。悔いはない。天命を待つのだ。

残った今日のこのひとときを、楽しもう。

あーあ、あの美夜ちゃんの叔母さんが連れて行ってくれた、あの素敵な、大人の雰囲気のカクテルバーに、水島さんと行きたかったな。水島さんによく似合うだろうな。

春乃が、池で泳ぐ鯉を見ながら、思っていたときだった。

水島が、微笑んで春乃を見て言った。

「春乃さん、本当に、僕と結婚を前提に付き合ってもらっていいですか?」

春乃は、驚いて水島を見た。嬉しい。

そして、頬を赧めて言った。

「はい・・・よろしくお願いします」

それから、2人は、食事をしたり、春乃のリクエストで、あのカクテルバーに水島は一緒に行ってくれた。

「ここはいいね。また、何かで使いたいし、時々来よう」

と、水島も気に入ったようだった。



そして、3回目のデートが終わって2人は婚約した。


二人の婚約を、春乃の両親も、水島家の人も喜んだ。

「あんなに苦労して復員して帰ってきて、こんなに若くて可愛いお嬢さんが、お嫁さんにきてくださるなんて」
水島夫人は、春乃の母に言った。



結婚は、春乃の卒業を待って行われることになり、春乃が、戦前からあった、地元ミッションスクールの出身なので、その隣接した教会で挙式をして、メープルホテルで披露宴をすることになった。



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