(仮)あの頃〜兄の友人、美しい幼馴染。別れと再会

ピアノ

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遠い人

終戦後の大火の後で、桜茶舗は新しく建て直され、店も広くなった。

今は、兄の陸が主になって、店を運営している。

色々なお茶を試飲できるコーナーが出来て、茶器や道具も並べられ、生活に活気を取り戻した町の人々がいつも訪れている。

陸は、お茶の産地にでかけたり、茶葉を使った菓子の製造を手がけたりするなど、新しい試みにも積極的だった。

進駐軍もまだ、滞在中だ。
ウィルは本国へ戻ったけれど、ベンさんはそのまま着任していて、変わらず仲良くしている。

そして、国へ戻ったウィルからは、美夜のもとへ手紙が届いた。

故郷に戻ったウィルは、友人たちに、美夜のことを毎日話していること、そして

“Miya, I miss you.”

と書かれていた。

ウィルの美しい笑顔と、青空が浮かぶ。

珍しそうに、覗き込んできた陸が

「わあ、ラブレターだな、これは」

と、美夜に言った。


陸はその日、隼人から連絡があったということで、久しぶりに一緒に飲みに行くのだと言って、夕方から出かけて行った。

隼人は、桜茶舗へは、あの最初に神戸から来た時以来、一度も立ち寄っていない。
だから、美夜もS市の繁華街で偶然出会った時以外、会っていない。

兄と隼人と3人で、いつも一緒だった頃が懐かしかった。
兄の陸には時々会っているらしいのに、ここには何故か、来ない。

本来の隼人ならば、祖母にもみんなに、明朗に挨拶に訪れると思う。

今の隼人は、桜茶舗に来ることを避けている。美夜や、祖母たちには会う気がないのだ。それは、明らかだった。

だから、昔のように、兄に「私も一緒に行く」とは言えない。
兄も美夜を誘おうとはしない。


兄と隼人が会った翌朝、皆で朝食を食べながら、

「隼人くんは、元気になっていた?」

と、母が尋ねた。

あんなにいつも、学校時代は桜茶舗に立ち寄っていたので、母も祖母も、隼人のことは気にかけている。

尋ねられて、陸は

「うん、だいぶ調子が戻ってきたみたいだ。会社勤めも順調みたいだった」

と答えた。

「それは、良かったねえ」
と、祖母も言った。

「詳しいことは聞いてないけど、戦争では、殺される側にも、殺す側にも立たされる。辛すぎるよ」

そう言った陸の言葉に、美夜たちは、何も言えず、無言になった。

つまりそれは、隼人に起こったことだろう。

「隼人は昔も今もいい奴だよ」

兄は、ぽつんと言った。

隼人は、誰に対しても、偏見を持たない人だった。
中学生の美夜に対しても、全く対等な接し方だった。

そんな彼が苦しんだのは、察するに余りある。

でも、他の人々には会っているのに。

桜茶舗と美夜だけが、忘れ去られていると思った




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