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美しい夜の花灯り 2
美夜は、隼人から、思いがけず出征の時の話が出たことに、驚いた。
彼女は頷いた。
そして、鞄の中から、見送りの日に、隼人がくれた万年筆を取り出して、彼に見せた。
「あっ、それまだ持ってたのか?」
「火事のときも、これは、私の鞄に入っていたから無事だったの。いつか会えたら、隼人くんに見せようと思ってた」
隼人はふっと思い出すように言った。
「美夜は、あの時すごく泣いてたな」
あの日、遠ざかってゆく姿を、追いかけて行きたかった、あの切ない記憶が甦る。
美夜は今、彼が目の前にいるのが不思議な気がした。
隼人は、続けた。
「あの時、ずっと待ってる、って泣いてたよな」
「 ・・・・・・」
ここにいるのは、あの時と同じ隼人なのだろうか。
隼人が変わっても、自分の心の中で、好きなのは構わない。ずっとそう思ってきた。
でも・・・本当は、
「わたし、ずっと待ってた。」
そう、美夜は言った。
言うと、涙が出てきた。
辺りは、夕闇が迫り、街灯が灯り、川面と、川沿いを照らし始めた。
あの日のように、一度溢れた涙が、なぜか止まらない。
隼人は、美夜の顔を覗き込むようにして凝視めた。
そして、ゆっくり、話し始めた。
「もっと早く、一番先に、美夜のところに帰って来れなくてごめんな」
「そんな状態じゃなかったんだ」
美夜は頷いた。
「わかってる。兄さんから、具合が悪いって、少し聞いてたから」
戦争から戻った隼人は酷い精神状態だったと、兄は話した。
「今は?」
「ああ、だいぶマシになった。」
隼人は、昔、美夜の肩に手を置いたように、今は、あの頃より、背の高くなった美夜の肩に手を置いた。
当時の、小動物のように華奢で、小さな肩は、今は柔らかな、若い女性の肩に変わっていた。
「帰ってきてからも、ずっと、待ってたの」
美夜の瞳から、また、涙がはらはらとこぼれ落ちた。
「そうだろうな、美夜のことだから」
隼人は、美夜の肩を今度は深く抱いた。
美夜は、泣きながら、隼人の胸に、顔をうずめた。
どこまでも、走って追いつきたかった人の胸だった。
すでに夕方から夜に向かい、街灯が点々と灯り、白や薄桃色の花あかりが夜空に浮かぶ。
二人はその下に立っていた。
あの日、金平糖の入った巾着をくれた無口な少女は、桜の花になっている。
彼女の体温と涙が温かく、隼人に伝わった。
「また、美夜に会えて良かった」
隼人は言った。
隼人は、未だ闇が滲み、薄暗闇の空にも似た心を抱えたままだった。
しかし、周りの暗闇を照らす、川沿いの桜の花あかりのように、美夜は、自分の心を照らす、美しい、彼の花あかりだと思った。
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