32 / 39
第一章 フーバスタン帝国編
第32話 〈手作り!!〉
しおりを挟む「しかし納得出来ん!」
俺たちはいつものようにウルダースの森に薬草採集に来ていた。
「まあまあアッシュさん。自分でどうにか出来る事じゃないですから~」
アンナが慣れた手つきで薬草を摘んでいく。
まるでスキル【ぬすむ】でも使っているかのような手つきだ。
「ホンットにこう言う事に関して、アンタはしつこいわねー」
俺のしつこさに、嫌気が差したような顔で薬草をブチブチと摘んでいるのはミレーヌだ。
俺が納得いっていないのは、いつもの通りレベルについてだ。
薬草採集の依頼を受けるにあたり、冒険者カードの更新をしたのだが、俺はその結果に愕然としていた。
俺とアンナは2上がってレベル9になり、二人ともステータスに変更はないものの、アンナは新スキル【煙幕】が使えるようになっていた。
そしてミレーヌだけレベルが4上がって15になっていた。
ミレーヌもステータスやスキルに変更はなかった。
「五分ゴブリンとあれだけの死闘を演じたのに、たったの2レベル……」
「【目覚める力】使ってる間はノーカウントっぽいですよね~……」
「だよな。俺も魔法でだけど、一体倒したってのにアンナと上がり幅同じだもんな」
「いやいや、私が素で一体倒したの忘れてません? 私の方が納得いってないんですけど?」
俺はワケの分からん事を主張するアンナをシカトして、冷めた目でミレーヌを見る。
「な、何よ!? 私は【目覚める力】使わずに3体倒したんだから、レベルが上がってても不思議じゃないでしょ!?」
「おーい……私の主張は無視ですか~?」
「とにかくだ!」
ダンッ!! 地面を強く叩く。
「魔導士の頃は強い敵とガンガン戦ってガンガンレベル上がってたから気にならなかったけど、職業毎に成長曲線が違うとしか思えん! そして戦士は晩成型なのだろう!!」
俺の発言にアンナとミレーヌが、ヒョッとした間の抜けた顔をする。
「何当たり前の事言ってんのよ?」
「アッシュさん、それは流石に常識ですよ~」
「へ?」
顔が熱くなり、赤くなっているのが自分で手に取るようにわかる。
「へ~……頭の良いアッシュでも、基本的な事で知らない事もあるのね」
「いつも私達の事、頭が悪いって馬鹿にしてるのにね~」
ああ、穴が入ったら飛び込んで中から蓋をして自害してしまいたい。
アンナとミレーヌが、見たこともないくらいニヤニヤしていやがるら。
「仕方ないな~。そんな基本的な事知らなかった残念なアッシュに、今日はご飯をご馳走してやるか!」
「そうですね~……あ! 私達二人で残念なアッシュさんに、ご飯を作ってあげるのはどうですか!?」
オイ、やめろ。
「そうね~、たまにはいいわね~。帰りに材料買って帰りましょうか」
「さんせ~い!」
はんたーい! 大・反・対!!
俺は一人心の中で叫ぶ。
ミレーヌよ思い出せ、四人で旅をしていた頃の食事当番の事を。
俺、カイ、俺、カイ、俺、ミレーヌ、カイの順番でローテーションしていた事を忘れたのか?
カイは料理が趣味だと公言するほどで、家庭料理などを幅広く作れ、とてもうまい。
俺もザ・男飯と言った感じの料理になってしまうが、カイも俺の作る飯は好きだと言ってくれていた。
そしてミレーヌ。
いつものダメダメなミレーヌからは想像も出来ないほど料理が上手い。
もはやプロと言っても過言では無いレベルだ。
食べるのが好きだから、味を追い求め料理の腕も上がっていったのかもしれない。
ただ冬マツキノコ狩りの時に七輪を持ってくる事でも分かるように、とにかく素材から何からこだわりが強く、食事当番には向かないので週に一回だけ当番を任せていた。
……問題はアンナだ。
何を作らせても未知の暗黒物質にしてしまう、恐ろしい手の持ち主である。
教会や修道院なんかで炊き出しの手伝いをしていたはずなのに、全く料理が出来ない。
料理が出来ないだけなら許せるのだが、やたらと料理を作りたがり、その度に未知の物質を生み出し続けるモンスター……それが【聖女】アンナ・フランシェスカだ。
アンナが初めて炊き出しに参加した時に起きた、ハウンドッグ王国最悪の集団食中毒事件は、悪魔の晩餐会事件と呼ばれ、王国に衛生観念の徹底的な見直しを促した。
この事件の原因がアンナと決まったわけではない……決まったわけではないが、参加していた以上は容疑者の一人だ。
それなので俺、カイ、ミレーヌの間では、アンナに料理をさせないのが暗黙のルールになっていたほどだ。
俺がそん事を考えているうちに、アンナとミレーヌは何を作るかで大いに盛り上がっている。
(ミレーヌ! ミレーヌ!)
俺が小声でミレーヌに呼びかけるが、ミレーヌは全く気が付かない。
知力がGになって、アンナに料理をさせるなと言う俺達パーティーの暗黙のルールを忘れてしまったのか!?
ダメだ……帰りに整腸剤を買って帰るか……いや、こんな時こそ色付きポーションを試してみるのもいいかもしれない。
もしかしたら解毒作用のあるポーションが見つけられるかもしれないしな!
頼んだぞボンズ錬金術師! 俺の命はアナタの腕に掛かっている!
「薬草はこれくらいでいいですね~」
「早く帰って買い物に行きましょう」
アンナとミレーヌは早く帰って料理をしたい様子だ。
帝都に戻り冒険者ギルドに薬草を納品して、アンナ達と別行動をし、俺は気が進まず重い足取りのまま、一足先に一人で家に帰った。
「ふう……何を食わされるのか不安で堪らんな。先にポーションを準備しておくか……」
自室に行き、色付きポーションを道具入れに忍ばせておく。
そして数十分後に、買い出しを終えたミレーヌと、悪魔の晩餐会事件の重要参考人『少女A』が帰って来た。
「ただいま」
「ただいまです~」
ゴクリ。
一体コイツらは何を作るつもりなのか……。
「今日は作った事ないんだけど、ジャパング名物オシスを作ってみるわ。アンタ魚好きでしょ?」
「ジャパングの人達はオシスに目がないんですよ~」
魚は好きだけど、やったぜ! とはならないのが残念。
ただでさえ、『容疑者A』がキッチンに立っているという事実だけで、オシスとやらが悪意の無い毒物に変わりかねないのに、何故作った事のない料理に挑戦するのか……理解に苦しむぜ。
「お、俺そんなに腹減ってないからさ……無理して作らなくていいぜ?」
無駄だと思うが牽制してみる。
「大丈夫ですよ~。オシスは一口サイズなんで、食べる量の調整が簡単なんですよ~?」
「それに初挑戦だから時間も少し掛かると思うから、出来上がる頃にはお腹も空いてくるんじゃない?」
「あ……そ、そうかな?」
「アッシュとアンナには命を救ってもらったわけだし、お礼だと思ってゆっくりしてて」
お? 作るのはミレーヌだけなのか!?
「私も手伝いますよ~、ミレーヌちゃ~ん」
はい、死んだ~! 俺死んだ~!
しかしオシスとは一体どんな食べ物なのか……。
「オシス? オシスはライスをビネガーと砂糖や塩なんかと混ぜて、生魚の切り身を乗せて一口大に握った料理よ」
「生魚? 切り身には手は加えないのか?」
「手を加えるのはライスだけで、"握り"に技術がいるらしいわ。まあ、何とかなるでしょ」
「魚も寝かせて熟成させたりとか色々本当はあるんですけど、今日の今日でしかも素人がそこまで出来ないですからね~」
キ、キターー!
普通なら、生魚なんて食えるか~!! ってなるところだが、今の状況からだと『容疑者A』が手を加える事のない生魚の方が、はるかに安全な食べ物だと断言できる。
しかしアンナはオシスに詳しいな。
「じゃあ準備出来たら呼ぶから、自分の部屋で待ってて」
「? 自室で? ここじゃダメなのか?」
「いろいろと準備があるんですよ~。さぁ邪魔者は行った行った」
こうして俺は一抹の不安を覚えながら自室へと追いやられた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件
☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。
しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった!
辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。
飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。
「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!?
元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
追放された荷物持ち、【分解】と【再構築】で万物創造師になる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーから「足手まとい」と捨てられた荷物持ちのベルク。しかし、彼が持つ外れスキル【分解】と【再構築】は、万物を意のままに創り変える「神の御業」だった!
覚醒した彼は、虐げられていた聖女ルナを救い、辺境で悠々自適なスローライフを開始する。壊れた伝説の剣を直し、ゴミから最強装備を量産し、やがて彼は世界を救う英雄へ。
一方、彼を捨てた勇者たちは没落の一途を辿り……。
最強の職人が送る、痛快な大逆転&ざまぁファンタジー!
「人の心がない」と追放された公爵令嬢は、感情を情報として分析する元魔王でした。辺境で静かに暮らしたいだけなのに、氷の聖女と崇められています
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は人の心を持たない失敗作の聖女だ」――公爵令嬢リディアは、人の感情を《情報データ》としてしか認識できない特異な体質ゆえに、偽りの聖女の讒言によって北の果てへと追放された。
しかし、彼女の正体は、かつて世界を支配した《感情を喰らう魔族の女王》。
永い眠りの果てに転生した彼女にとって、人間の複雑な感情は最高の研究サンプルでしかない。
追放先の貧しい辺境で、リディアは静かな観察の日々を始める。
「領地の問題点は、各パラメータの最適化不足に起因するエラーです」
その類稀なる分析能力で、原因不明の奇病から経済問題まで次々と最適解を導き出すリディアは、いつしか領民から「氷の聖女様」と畏敬の念を込めて呼ばれるようになっていた。
実直な辺境伯カイウス、そして彼女の正体を見抜く神狼フェンリルとの出会いは、感情を知らない彼女の内に、解析不能な温かい《ノイズ》を生み出していく。
一方、リディアを追放した王都は「虚無の呪い」に沈み、崩壊の危機に瀕していた。
これは、感情なき元魔王女が、人間社会をクールに観測し、やがて自らの存在意義を見出していく、静かで少しだけ温かい異世界ファンタジー。
彼女が最後に選択する《最適解》とは――。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる