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第二章
可愛いゲストは問題児
◯
絢永の運転するパトカーで一旦警視庁舎へと戻り、そこで帰り支度を済ませると、三人はそこから歩いて予約した店へと向かった。
道中、栗丘がやけにニヤニヤと頬を緩ませていたので、
「なんです? 気持ち悪い」
絢永が不快さを露わに指摘すると、
「んー? 別にぃー?」
と、栗丘はへらへらとしたまま受け流す。
その様子がさらに不快で、絢永はいつものように溜息を吐いた。
「まあ、だいたい想像はついてますけどね。大方、さっき御影さんに褒められたのが嬉しかったんでしょう。一応あなたのためにも言っておきますけど、御影さんはああいう適当なことを簡単に口走る人なので、あまり真に受けない方がいいですよ」
「やだなあ、絢永くん。人聞きの悪い」
本当のことじゃないですか、と呆れ顔で言う絢永の声は、もはや完全に浮かれてしまっている栗丘の耳には届かなかった。
やがて道の先には目的地である店が見えてくる。
飲み屋街の一角にある老舗の料亭だ。その外観を見て栗丘は一瞬財布の中身を心配したが、「今日は私の奢りだから」と御影に言われてホッとする。
予約の時間は午後六時。
絢永が時計を確認して「丁度良い時間ですね」と言うと、御影はこくりと一つ頷いて言った。
「あの子は先に着いてるだろうから、もしかしたらもう食べ始めているかもしれないね」
その発言に、栗丘はハッと思い出す。
「そういえば、今日のメンバーは四人って言ってましたよね。特例災害対策室って、御影さんたちの他にももう一人いるんですか?」
今夜の歓迎会は四人で予約を取っている。
まだ見ぬもう一人の存在は、栗丘にはまだ説明されていない。
「いやいや。対策室には今のところ私たちだけだよ。あやかしが見える人間はそう簡単には見つからないからね」
「え? じゃあ、もう一人は別の部署の人なんですか?」
予想外の返答に、栗丘は首を傾げる。
「別の部署というか、そもそも警察の人間じゃないよ。でも完全な部外者ってわけでもない。その子のことはとりあえず『可愛いゲスト』とでも思ってくれたらいいかな」
「えっ、『可愛い』……?」
御影の口にしたそのワードに、栗丘は目を輝かせて食いつく。
「も、もしかして女の子ですか?」
「うんうん。とびっきり可愛い女の子だよ。しかもまだ十代!」
「じゅっ!?」
うひゃーっ! と一体何を想像したのか、栗丘は真っ赤になった顔を両手で隠す。
その様子を隣で静観していた絢永は、
「『可愛い』、ねぇ」
と、遠い目をしてぽつりと呟くのだった。
店の中はまだ空いているのか、どの個室もしんと静まり返っている。
女将さんの案内で、三人は一番奥にある座敷へと向かった。
襖を開けると、そこは床の間が設えられた立派な部屋だった。中央には広々とした座卓があり、分厚い座布団を載せた座椅子が四つ並んでいる。
その内の一つ、上座に当たる席に、件の少女は腰を下ろしていた。
その顔を見て、栗丘はギョッとする。
「あ——っ! お前!!」
見覚えのあるその顔に、思わず叫ぶ。
十代の半ばと思しき瑞々しい容姿。
白い肌に、ぱっちりとした愛らしい瞳。
ハーフツインに結われた長い髪は所々にピンクのメッシュが入っており、服装は黒を基調としたパンク系ファッションである。
「お前っ、あの時のひったくり女!!」
忘れもしない。
先日、交番の前で栗丘の財布を盗んだあの少女だった。
「えへへ。久しぶりだね、お間抜けさん❤︎」
彼女はすでに運ばれてきた料理に手を付けており、ぺろりと赤い舌で唇を拭うと、小ぶりな八重歯を覗かせて小悪魔っぽく笑った。
その様子に、御影は肩をすくめて苦笑する。
「あーあ。やっぱり先に食べ始めちゃってたんだねえ。一応、今日は栗丘くんの歓迎会なんだけどなあ」
「ちょ、ちょっと御影さん! どういうことですか!? こいつ、前に俺の財布を盗んだ泥棒ですよ!」
「えー? あたし、泥棒なんかじゃないんですけど? あんたの財布ももらってないし」
「前回は僕が取り返しましたからね。悪戯はダメですよ、マツリカさん」
絢永が嗜めると、マツリカと呼ばれた少女はぷいっとそっぽを向く。
可愛い顔して傍若無人な振る舞いのゲストに、栗丘は面食らいっぱなしだった。
「まあまあ。栗丘くんには一つずつ説明していくから、とりあえず座ろうか」
お腹も空いたしね、と促す御影の声で、その場は一旦落ち着きを取り戻す。
四人がそれぞれ席に着いたところで、栗丘は改めて御影に質問した。
「で、どういうことなんですか御影さん。このコソ泥が俺たちとどういう関係があるんです? まさか服役中の囚人ってわけじゃないですよね?」
「あーっ、それすんごい失礼! ミカゲ、こいつのこと名誉毀損で逮捕してよ!」
いちいち突っかかってくる少女に、栗丘は嫌悪の目を向けて歯ぎしりする。
「こらこら、二人とも喧嘩しないでね。このままじゃ永遠に話が進まないよ」
「ほんと。幼稚な人間ばかりで先が思いやられますよ。一体どっちが子どもなんだか」
はあ、と溜息を吐いた絢永を、栗丘と少女の二人はほぼ同時に睨みつけた。
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