あやかし警察おとり捜査課

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第一章

おめでとう、そしてようこそ

 
          ◯


「斉藤さん。起きてください、斉藤さん!」

 栗丘が呼びかけること数分。
 畳の上で伸びていた斉藤は、やっとのことで意識を取り戻し、うっすらとまぶたを開いた。

「斉藤さん! よかったぁ、気がついた」

「ここは……?」

 状況を飲み込めていない斉藤に、隣に立って腕組みをしていた絢永が少々厳しい声で説明する。

「あなたの店ですよ。先ほどまで我々を襲っていたのを覚えていませんか? 感情に任せて、こちらの警官に手を出しましたよね」

 言われて、斉藤はハッとした顔をすると、見る見るうちにその顔面全体を青ざめさせていく。

「そ、そうだ。私は……。栗丘さん、あなたの首に手をかけて」

 どうやら記憶はあるらしい。
 自覚した途端、彼はその場に改めて正座すると、そのまま頭を下げて土下座の体制になった。

「申し訳ありません! 私は、何ということを……! もう少しで、あなたのことを殺してしまうところでした。これはもう立派な殺人です!」

「わ、わ、斉藤さん! 土下座なんて……お願いですから顔を上げてください!」

 栗丘が慌てて彼の肩を抱き起こすと、再び見えたその顔には幾筋もの涙が伝っていた。

「私は、もう……自分自身が恐ろしくてたまりません。どうか刑務所に入れて監視してください。このままでは、いつか本当にこの手で誰かを殺してしまう」

 罪の意識に苛まれる彼に、絢永は相変わらず容赦のない言葉をかける。

「逮捕できるものならいくらでもしますけどね。あいにく、逮捕状がないんですよ。ついでに言うと被害届もありません。ですから、ここで起こったことについて我々は介入しません。それでも納得がいかないのなら勝手に出頭でも何でもしてください」

「そんな冷たい言い方しなくてもいいだろ、絢永。でもまあ、そういうことだから、斉藤さん。そんなに気に病む必要もないですよ。それに、あなたの中にいた悪い奴は、私たちがやっつけましたから」

「……やっつけた?」

 栗丘の言ったことの意味がわからず、斉藤は不思議そうに首を傾げる。
 そのことについてあまり詮索されたくなかったのか、絢永は栗丘の首根っこを掴んでさっさとその場から退散する。

「もういいでしょう。御影さんも待ってますし、そろそろ行きますよ」

「ちょっ、引っ張るなよ! 子どもみたいな連れて行き方すんな!」

「ま、待ってください。栗丘さん! 私は、あなたに何とお詫びすれば良いか」

 尚も追いかけて来ようとする斉藤に、栗丘は「あっ」とあることを思い出す。

「そうだ。ごめん、斉藤さん! お店の入口の扉、さっき壊しちゃったんだ。それでおあいこってことで、今回のことはチャラにしてよ」

 栗丘の言った通り、先ほど絢永が蹴り飛ばした扉は無惨にも商品棚へと突っ込んでいた。
 その光景に斉藤は一瞬ギョッとしたが、「いや、私のしでかしたことに比べればこれくらい……」と呟く。
 それを耳にして、栗丘はニッと笑みを浮かべる。

「それじゃあ、そういうことで!」

 別れの挨拶も兼ねて敬礼しながら、栗丘は店を後にした。
 そのまま外に出てもなおスーツの襟首を掴んだままの後輩に「そろそろ放せよ!」と抗議すると、やっとのことで解放される。

「まったく。あなたといると余計な面倒ごとが増えてたまりませんね」

「なんだよー。俺のおかげであのあやかしは正体を現したんだろ? もっと素直に感謝してくれてもいいんだぞ。ほら、さっきみたいに『栗丘センパイ』って」

「やめてくださいよ。あなたに感謝なんて微塵もしてません。それに、先輩呼びなのは御影さんにそうしろって言われたから仕方なくです。あと僕がさっき助けなかったらあなた、今頃あの鬼に食べられていたでしょう!」

「あっはっはっは。仲が良いねえ、二人とも」

 と、そこへからからと愉快な笑い声が届く。
 二人が同時に見ると、暗い夜道の角にぼうっと浮かび上がる白い狐面があり、栗丘は「ぴゃッ!」と奇声を上げて飛び上がった。

「御影さん。そのお面は怖いんですから普通に登場してください」

 スン……とした顔で絢永が注意する。

「いやいやぁ。君たちがあまりにも仲良くやってるもんだから、どう会話に加わっていいものか悩んでしまってねえ」

 手元の扇子をしきりにパタパタとさせながら、御影はゆっくりとした足取りで二人の元へ歩み寄る。

「無事にあやかしは退治できたようだね。おめでとう、栗丘くん。これで君は、晴れて我々の仲間入りだよ」

 その言葉で、栗丘は大事なことを思い出す。

「あっ、そうか。そういえば、そういう話になってたんだっけ」

 斉藤のことで頭がいっぱいで、肝心なことを忘れてしまっていた。
 無事にあやかしを退治したことで、晴れて栗丘は御影の持つ機密情報を手に入れられるのだ。
 そしてその代わりに、

「えっと、特例ナントカ……ナントカっていう部署に異動になるんでしたっけ」

「特例災害対策室です。いい加減に覚えてください」

「まあまあ、いいじゃないか絢永くん。特例災害対策室。つまるところ、あやかし退治専門の部署。人呼んで『あやかし警察』ってところかな。呼ぶ人はいないけどね、たぶん」
 
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