29 / 51
第三章
門の向こう側にある真実
「そう。二人とも、大晦日の夜に家族を失っている。これはただの偶然じゃない。もともと大晦日というのは『百鬼夜行』が起こりやすい日といわれているんだ」
「ひゃっき……?」
栗丘がまたしても首を傾げると、
「百鬼夜行というのは、数多のあやかしが群れを成して襲ってくる現象のことだよ」
御影も栗丘の扱いに慣れてきたのか、間髪入れずにそう補足した。
「大晦日の夜といえば、新しい年が明ける直前の時間帯。一年と一年の境目、いわば『狭間』や『境界』に当たることから、あの世とこの世との境目も曖昧になる。その不安定な空間に発生するのが『門』なんだ」
「門って、このあいだ俺とマツリカが見つけたアレ、ですか?」
先日、マツリカの策略に嵌って廃墟のマンションへと足を踏み入れた栗丘は、そこで『門』の向こうからやってきたあやかしと対峙した。
「あの程度の規模の門が開くのは、そう珍しいことじゃない。どんなあやかしも、必ず門を通ってこちらの世界にやってくるからね。まあ、開く瞬間に出くわすのはかなり稀だけど」
門の開く瞬間を目の当たりにした時のマツリカは、どこか興奮した様子だった。
栗丘の『引き寄せ体質』がなければ、あの門も目の前で開くことはなかったのかもしれない。
「大晦日の夜はあちこちで門が発生して、大量のあやかしが一気にこちらの世界へと雪崩れ込んでくる。それが百鬼夜行さ。でも、大半のあやかしは弱小で取るに足らない、言ってしまえば放置してもほぼ問題のないものばかり。その中で我々が一際警戒しなければならないのは、十年に一度開くといわれる巨大な門の存在なんだ」
「十年に一度?」
そのワードに、栗丘は反応する。
「十年に一度だけ、巨大なあやかしが、その門を通して体の一部だけでもこちらの世界へ干渉してこようとする。その力は強大で、門の発生した周辺では甚大な被害が出ることもある」
「もしかして……俺の両親や絢永の家族は、その巨大なあやかしに喰われたってことですか?」
栗丘の両親が巻き込まれた事件と、絢永の家族が殺された事件は、ちょうど十年ごとに起きている。巨大なあやかしの出現が大晦日の夜だとするなら、間違いない。
しかし御影は、
「そうとも言えるし、違うとも言える。そこのところを詳しく話すのは、君の覚悟を確かめてからにしたいんだけど……」
この期に及んで、なぜか情報の一部を出し惜しみする御影に、栗丘は少なからず苛立ちを覚えた。
「もったいぶらないではっきり言ってくださいよ。なんでそうやっていつも中途半端にはぐらかすようなことするんですか。情報を出し渋ったり、嘘を吐いたり……そんなことされると、さすがに俺も腹を立てるし、あなたのことを信用できなくなりますよ」
先ほどの式神のこともあり、思わず声に棘が混じる。
「私を信用するかしないかは、君の好きにすればいい。私は平気で嘘を吐くし、目的のためなら手段を選ばない。ただ、私にしか知り得ない情報があるというのも確かで、こと君の父親の真相について詳しく知っているのは、おそらくこの世で私ただ一人だけだと思う。だから、これから私の話すことは、君の中でどう受け止めてもらっても構わない。事実として受け入れるのか、あるいは嘘偽りだと否定するのか。どちらにせよ、私の言葉が真であるかどうかなんて、確かめる術はほぼないだろうけどね」
まるで開き直りとも取れるその姿勢に、栗丘はどう対応したものかと迷う。
「もっとも、最初から私の話を聞きたくないのであれば、無理に聞く必要はないよ。真実を追い求めることだけが正解ではないという場合もある。この世の真実なんてロクでもないものばかりだし、知らない方が幸せなことだってたくさんある。夢や憧れ、美しい思い出なんかを余計な真実で汚されたくないという人もいるだろう。都合の悪いことから目を逸らすのも、健全に生きる上では大切なスキルだからね」
「俺は、目を逸らしたくなんかないんです!」
栗丘が声を張り上げると、途端に黙り込んだ御影は、キュー太郎の頭をゆっくりと持ち上げて、栗丘の顔をじっと見つめた。
「俺は真実が知りたいんです。都合の良い嘘なんていりません。たとえ、どれだけ認めたくない真相がそこにあったとしても……受け入れなきゃいけないと思ってます。でないと俺は、俺の両親と本気で向き合えていない気がするんです」
そこまで聞き終えてから、御影はふふっと鼻を鳴らすように笑った。
「本当に君は、父親に似てまっすぐなんだね」
「え?」
「わかった。君の覚悟を確認したから、私も話すよ。心の準備はいいね?」
最後の確認といわんばかりに改めて問われ、栗丘は思わず息をのむ。
「は……はい!」
栗丘の威勢の良い返事に、御影の操る白い獣は、こくりと一つ頷いてから言った。
「単刀直入に言うと、君の父親はまだ生きている」
「…………は?」
のっけから想定外の言葉が飛んできて、栗丘は思わず固まった。
「生きてる? 俺の、父さんが?」
「そう。生きている。けれど、この世にはいない」
「ん? え? この世にはいないって、それって、死んでるってことじゃ……?」
混乱する栗丘を宥めるように、キュー太郎はテーブルから栗丘の膝に飛び移ると、後ろ足だけでその場に立ち上がってじっと見つめてくる。
「まだ死んでないよ。こちらの世界にはいないだけで、彼はあちらの世界で生きている」
あちらの世界、という呼び名を聞いて初めて、栗丘はハッとした。
「二十年前、君の父親は例の巨大なあやかしと対峙し、敗北した。死は免れたものの、あやかしに憑かれて憑代と化した彼は、そのままあちらの世界へ連れて行かれてしまったんだ。そして十年前、彼は憑代として、再びこちらの世界へと戻ってきた。この意味がわかるかい?」
十年に一度現れる、強大な力を持った恐ろしいあやかし。その憑代となった人間の取る行動といえば、考えられるのは一つしかない。
「……まさか」
わずかに全身を震わせる栗丘に、御影は真実を語る。
「十年前に絢永くんの家族を殺したのは、君の父親である栗丘瑛太なんだよ」
あなたにおすすめの小説
神楽囃子の夜
紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。
年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。
四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。
ブラックベリーの霊能学
猫宮乾
キャラ文芸
新南津市には、古くから名門とされる霊能力者の一族がいる。それが、玲瓏院一族で、その次男である大学生の僕(紬)は、「さすがは名だたる天才だ。除霊も完璧」と言われている、というお話。※周囲には天才霊能力者と誤解されている大学生の日常。
僕《わたし》は誰でしょう
紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
京都先斗町のあやかし案内人 猫神様と迷える幼子
紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
キャラ文芸
旧題:迷子のあやかし案内人 〜京都先斗町の猫神様〜
やさしい神様とおいしいごはん。ほっこりご当地ファンタジー。
※2025/10/14 書籍化しました。
※2025/2/28 第8回キャラ文芸大賞〈ご当地賞〉を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
*あらすじ*
あやかしが見える女子高校生の桜は、京都に引っ越して早々、迷子の幼いあやかしを保護する。
そのあやかしに導かれ、京都先斗町で出会ったのは、猫神様と呼ばれる超美形の神だった!?
現世に迷い込んだあやかしの案内人をしている猫神様は、なぜか桜のことを古くから知っている様子で……
そんな彼の作る美味しい料理やその温かな人柄に惹かれて、桜は迷えるあやかしを見つける度、彼のもとを訪れるようになる――
幼いあやかし達の未練を晴らすため、少女と猫の神は京都の街を奔走する!
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
後宮薬師は名を持たない
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。
帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。
救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。
後宮が燃え、名を失ってもなお――
彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。
炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~
悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。
強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。
お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。
表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。
第6回キャラ文芸大賞応募作品です。
【完結】限界離婚
仲 奈華 (nakanaka)
ミステリー
もう限界だ。
「離婚してください」
丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。
丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。
丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。
広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。
出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。
平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。
信じていた家族の形が崩れていく。
倒されたのは誰のせい?
倒れた達磨は再び起き上がる。
丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。
丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。
丸田 京香…66歳。半年前に退職した。
丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。
丸田 鈴奈…33歳。
丸田 勇太…3歳。
丸田 文…82歳。専業主婦。
麗奈…広一が定期的に会っている女。
※7月13日初回完結
※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。
※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。
2026年1月ジャンルを大衆文学→ミステリーに変更しています。