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第二章
水無瀬の秘密
しおりを挟む「その名前で呼ばないでって、前にも言ったわよね?」
水無瀬はやけに低いトーンで色紙に言う。
「そんなに睨むなよ。オレは質問されたことに答えてるだけなんだから」
「ほんと、相変わらず嫌味な奴よね。あんたって」
あれ、ちょっと待て。なんだこのやりとり。
この二人、いつのまに下の名前で呼び合うような仲になってたんだ?
「あんた、あたしの奴隷でしょ。奴隷になったからには、あたしの言うことは絶対よ。もう二度とその名前で呼ばないで」
「はいはい、わかりましたよ。相変わらず見た目は可愛いくせに、怒ると怖ぇなー」
なんだろう。
まるで旧知の仲のように会話する二人を見て、俺はひとり戸惑う。
一見ケンカをしているだけのようにも見えるが、お互いに遠慮のないやり取りが、逆に親しげな雰囲気にも思えてくる。
「な、なぁ。二人とも、いつのまにそんなに仲良くなったんだ? ……というか、もしかして。実は以前からの知り合いだったとか?」
もしかしたら、中学が同じだったのかもしれない。あるいは塾とか習い事なんかで会う機会があった可能性もある。そう考えれば、こうして親しげに話していることにも頷ける。
しかし水無瀬は、
「違うわよ。こいつとは入学式の日に初めて会ったし、そもそもこんな捻くれた奴と私が仲良くなんてするわけないでしょ」
「そうなのか? でもそれじゃあ、さっきはなんで……下の名前で呼んでたんだ?」
澪、と。色紙は彼女のことを下の名前で呼んでいた。
そういう呼び方をするのは、よほど仲の良い間柄か、あるいは恋人同士のイメージが強い。
「それは、その……」
なぜか水無瀬はそこで口ごもる。
俺には言えないような理由でもあるのだろうか。
「お、おい。なんで黙るんだよ。何か俺に隠し事でもしてるのか?」
どうにも雲行きが怪しくなってきた。
水無瀬と色紙との間で、何やら秘密のやり取りがあったらしい。そしてそれは、俺には伝えられない内容のようだ。
「なあ、水無瀬。何とか言ってくれよ」
ここ数日で、せっかく水無瀬とは信頼関係が築けてきたと思っていたのに、ここにきて急に距離を感じる。
「水無瀬。あんた前に言ってたよな。『あたしを信じて』って。お互いに少しでも疑念があると、信じ合うことができなくなるからって。あんたがそんな風に俺に隠し事をするなら、俺だってあんたのことを信じられなくなるぞ?」
無意識のうちに、彼女を責め立てるような口調になってしまう。
俺は何をそんなに焦っているのだろう。
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