催眠教室

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第三章

真実を知るために

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 自宅の玄関で靴を履く。通学用のローファーではなく、普段使い用のスニーカーだ。

「あら、八尋。どこかに出掛けるの? 今日は学校は休みじゃないの?」

 後ろから母さんの声が聞こえた。さっきまでキッチンにいたはずだが、俺がゴソゴソと身支度をしているのに気づいたらしい。

 今日はゴールデンウィークの初日で、もちろん授業はない。普段の俺なら特に予定もなく、こんな朝っぱらから外に出る用事もない。
 けれど、今日は特別だ。

「うん。ちょっと友達と出掛けてくる。晩御飯もいらないから」

 俺がそう言うと、途端にびっくりしたらしい母さんは手にしたタオルを取り落としていた。

「えっ、お友達!? 八尋にお友達!?」

 嘘でしょう!? と驚愕するその反応に、俺はなんとも複雑な気持ちになる。

 友達と遊びに行く、なんて。こうして伝えるのは何年ぶりだろう?
 中学の頃はほぼずっと心を病んでいた俺は、ここ数年、学校とメンタルクリニック以外に出掛けることは全くといっていいほどなかった。

「気をつけていってくるのよ。……あっ、お金は足りるの? お小遣い渡しましょうか!?」

 どうやら母さんも少なからず興奮しているらしい。息子に久々にお友達が出来たと聞いてあたふたとしている。

「いいよ、別に。お金なら足りてる。今まで特に使い道もなかったし」

 普段から出掛けることのない俺は、毎月親から貰うお小遣いを持て余していた。直近で使ったのは多分、先日乃々と一緒に行ったあのカフェぐらいだ。

 俺にとって数年ぶりとなる、友達とのお出掛け。
 しかし実際に今日集まるメンバーは、果たして純粋な『友達』と呼べるのだろうか。

「いってきます」

 玄関の扉を開け、五月晴れの空の下へ出る。すでに桜の花は全て散り、代わりに新緑の香りが辺りを包んでいた。

「おーい、八尋くーん!」

 と、どこからか聞き慣れた声が届く。

 見ると、ちょうど家の前を通りがかった乃々が、門の向こうからこちらに手を降っていた。進行方向からすると、自宅に戻るところらしい。ゴミ出しを終えた帰りだろうか。服装もあきらかに部屋着である。

「おはよう、八尋くん。どこかにお出掛けするの?」

「ああ。今日は水無瀬たちと約束があるんだ」

 水無瀬と、それから色紙と猫屋敷。今日は四人で集まって、とある場所へと向かうことになっている。

「そうなんだぁ。いいなぁ。楽しんできてね!」

 乃々はいつもの間延びした声で言って、にこりと穏やかな笑みを浮かべた。

 いつもの光景。
 現実と何も変わらない、見慣れた景色。

「うん。楽しんでくるよ、乃々」

 この世界の真相を知るために、俺は今日も、彼らに会いにいく。
 
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