54 / 90
第三章
怖い
しおりを挟む「俺たちが、すでに成人している……だって?」
思わず、隣の水無瀬と顔を見合わせる。
俺と同じで、これには彼女も相当驚いているようで、未だ半信半疑ではあるものの動揺を隠せていない。
さらにはそれまで我関せずだった猫屋敷も、
「えっ、どういうこと? ボクたちって本当は大人なの!?」
と、バス待ちの客が全員耳を塞ぐほどの大声を出す。てっきり会話の内容についてきていないと思っていたのだが、大事な部分はしっかりと理解しているようだ。
やがてそこへバスが到着して、俺たちは再び沈黙する。
俺たち四人を乗せた満員のバスは、海沿いの道を走って港を目指していた。
◯
港から船に乗り、片道二十分ほどの距離にある島へと渡る。
道中、俺たちは客室を出て甲板の方まで足を運んだ。船は三階建ての構造になっており、三階の半分が甲板となっている。
客室の扉を開けて外に出ると、より強い潮の香りとともに、とめどなく吹き抜ける風が髪を暴れさせた。風圧と、船のエンジン音とがうるさすぎて、人の話し声なんて大声を出さない限り聞こえない。
「なあ色紙! 『世界の果て』ってのは、その島に行けば見れるのか!?」
甲板の端にある手すりに掴まりながら、俺は声を張り上げる。
手すりの向こう側には深い緑色をした海が広がっており、船首と接触した波は真っ白に泡立っていた。
「ああ、見れるぞ! というか、わざわざ島まで行かなくても、この船に乗っていればじきに見えてくる!」
色紙もまた大声で返事をする。
彼の言った通りなら、ここでこうして海を眺めていれば、いずれは『世界の果て』が俺たちの眼前に姿を現すのだ。そしてそれを確認すれば、この世界が現実でないことは確定する。
「七嶋くん」
隣に立つ水無瀬が、俺にだけギリギリ聞こえるくらいの声量で言った。
見ると、彼女はいつになく心細そうな目でこちらを見上げていた。彼女の白くて細い指先は、俺の服の裾を心許なげに摘んでいる。
怖いのだろうか。
色紙の話していたことが現実になるのが。
正直に言えば、俺だって怖い。今こうしてここにいる自分が、本物じゃないかもしれないだなんて。
「見えたぞ!」
その声に、俺の心臓が跳ねる。
『世界の果て』が、姿を現した。
俺は恐る恐る色紙の方を振り返り、その先に広がる景色へ目を向ける。
「……あ……」
そうして視界に飛び込んできた光景に、俺は言葉を失った。
船の進む先に、小ぶりな島が見える。
おそらくは俺たちが向かっているその島の背後には、青く澄み渡る空——ではなく、真っ黒な壁が、海面と垂直にそびえ立っていた。
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる