催眠教室

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第三章

怖い

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「俺たちが、すでに成人している……だって?」

 思わず、隣の水無瀬と顔を見合わせる。
 俺と同じで、これには彼女も相当驚いているようで、未だ半信半疑ではあるものの動揺を隠せていない。

 さらにはそれまで我関せずだった猫屋敷も、

「えっ、どういうこと? ボクたちって本当は大人なの!?」

 と、バス待ちの客が全員耳を塞ぐほどの大声を出す。てっきり会話の内容についてきていないと思っていたのだが、大事な部分はしっかりと理解しているようだ。

 やがてそこへバスが到着して、俺たちは再び沈黙する。
 俺たち四人を乗せた満員のバスは、海沿いの道を走って港を目指していた。


          ◯


 港から船に乗り、片道二十分ほどの距離にある島へと渡る。

 道中、俺たちは客室を出て甲板の方まで足を運んだ。船は三階建ての構造になっており、三階の半分が甲板となっている。

 客室の扉を開けて外に出ると、より強い潮の香りとともに、とめどなく吹き抜ける風が髪を暴れさせた。風圧と、船のエンジン音とがうるさすぎて、人の話し声なんて大声を出さない限り聞こえない。

「なあ色紙! 『世界の果て』ってのは、その島に行けば見れるのか!?」

 甲板の端にある手すりに掴まりながら、俺は声を張り上げる。
 手すりの向こう側には深い緑色をした海が広がっており、船首と接触した波は真っ白に泡立っていた。

「ああ、見れるぞ! というか、わざわざ島まで行かなくても、この船に乗っていればじきに見えてくる!」

 色紙もまた大声で返事をする。
 彼の言った通りなら、ここでこうして海を眺めていれば、いずれは『世界の果て』が俺たちの眼前に姿を現すのだ。そしてそれを確認すれば、この世界が現実でないことは確定する。

「七嶋くん」

 隣に立つ水無瀬が、俺にだけギリギリ聞こえるくらいの声量で言った。

 見ると、彼女はいつになく心細そうな目でこちらを見上げていた。彼女の白くて細い指先は、俺の服の裾を心許なげに摘んでいる。

 怖いのだろうか。
 色紙の話していたことが現実になるのが。

 正直に言えば、俺だって怖い。今こうしてここにいる自分が、本物じゃないかもしれないだなんて。

「見えたぞ!」

 その声に、俺の心臓が跳ねる。

 『世界の果て』が、姿を現した。

 俺は恐る恐る色紙の方を振り返り、その先に広がる景色へ目を向ける。

「……あ……」

 そうして視界に飛び込んできた光景に、俺は言葉を失った。

 船の進む先に、小ぶりな島が見える。
 おそらくは俺たちが向かっているその島の背後には、青く澄み渡る空——ではなく、真っ黒な壁が、海面と垂直にそびえ立っていた。
 
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