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第四章
心の支え
しおりを挟む「だったら何? このまま先生の実験を拒否して、現実のあたしに死ねって言うの?」
「そうじゃない。水無瀬に死んでほしいなんて、俺が思うはずないだろ」
「どうだか。あたしの中学の時のクラスメイトたちだって、最初は仲良くしてたのよ。それが段々と冷たくなって、無視されて……。たぶん、ネット上であたしの誹謗中傷をしてたのも、何人かはリアルの知り合いだったと思う。人間って、どこまでも冷酷になれるのよ。あなただけがそうならない証拠なんてあるの?」
人はどこまでも冷酷になれる。
それは俺にだってわかる。
中学の頃、乃々に対して行われた数々の仕打ちがまさにそれだった。
「証拠なんて……あるわけないだろ」
「なら適当なことを言わないで。未来のあたしは現実に失望したの。この先どうやったって、あたしの心が救われることはない。ならやっぱり、こうして天上先生に任せるしかないじゃない」
「水無瀬」
俺がその名を呼ぶと、彼女はやっと口を噤んだ。半ば自暴自棄になっていた彼女が、少しだけ我に返ったように見えた。
「君は、俺のことが信じられないのか?」
そう俺が問いかけた瞬間、彼女の大きな瞳がわずかに揺れた。
「前にさ、水無瀬は俺に言ったよな。『あたしを信じて』って。お互いに手を組むなら、信頼し合うことが大事だって。どちらか片方でも疑念を抱いてしまったら、そこで俺たちの関係は崩れてしまうって」
これは以前、水無瀬と初めて信頼関係を結んだ日に、彼女自身が口にしたことだ。お互いがお互いを信じることで、俺たちの繋がりは強固なものとなる。
「それは……天上先生に対抗するために、仕方なく手を組んだだけでしょ。あなただって、もともとは乗り気じゃなさそうだったし。あたしに言われて渋々って感じで——」
「俺はさ」
水無瀬の声を遮る勢いで、俺は言った。
「水無瀬がそばにいてくれたおかげで、心がずっと軽くなったんだ。A組の教室で不安になっていた時も、九条とのトランプ対決で負けそうになった時も、この世界の真相について知った時も。どれだけ足が竦みそうになっても、隣に水無瀬がいてくれたから、俺はなんとか踏ん張ることができたんだ。……きっと、水無瀬がいなかったら俺は今頃、とっくに天上先生に屈していたと思う」
水無瀬は黙って聞いていた。
俺の話す言葉の意味が、心と感情が、彼女の胸に届いているだろうか。
「俺は、水無瀬が隣にいてくれるなら、現実の世界でも踏ん張れると思う。わざわざ脳に暗示をかけなくても、ありのままの心で生きていけると思う。そして、できることなら……俺自身も、水無瀬にとってのそういう存在でありたいと思ってる。水無瀬の心が折れそうな時に、支えてやれる人間でありたいと思ってる。だから……俺のことを信じてほしい。一緒に、今の心のままで、二人で現実に帰らないか?」
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