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Chapter #2

舞恋の計らい

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 艶のある黒髪に、彫りの深い、まるで彫刻のように整った目鼻立ち。
 背はカヒンよりもさらに高いだろうか。
 明らかに百八十センチは余裕で超えていて、もしかすると百九十近くあるかもしれない。

「She is my friend, Misaki!」

 隣から舞恋が私を指して言う。

「Nice to meet you, Misaki.」

 彼はそう言ってそっと片手を差し出してくる。

「な、ないすとみーちゅーとぅー!」

 私はつい緊張して声が上擦ったまま握手に応じた。

 褐色肌の大きな手。
 一体どこの国の人だろう、と考えていると、それを読み取ったかのように舞恋が「タイ人だよ」と耳打ちしてくる。

 そういえば、タイの人は美人が多いと聞いたことがある。
 てっきり女の人ばかりが綺麗なのだと思っていたけれど、男の人までこんなに綺麗なんだ、と感動する。
 さらには所作の一つ一つも美しくて、まるでどこかの国の王子様みたいだ。

「にしても、『ゴルフ』ってなんだか面白い名前だね?」

「うん。たぶん『イングリッシュネーム』でしょ」

 舞恋が言って、私は「いんぐりっしゅねーむ?」と首を傾げる。

「英語圏の人でも発音しやすいように、本名とは別で英語っぽい名前をわざわざ使ってるんだってさ。みさきちのクラスには使ってる人いないの?」

 聞かれて、真っ先に思い出したのはスージーのことだった。
 彼女の名前はなんだかアジア系っぽくないなと思っていたけれど、もしかすると、彼女もそのイングリッシュネームというものを使っているのかもしれない。

「Michael.」

 と、ゴルフが何か言った。

 それに対し、舞恋は「Yes?」と応える。

 もしかして今、舞恋の名前を呼んだのだろうか?
 それにしてはちょっと発音に違和感があったような。

 ゴルフは道の先から走ってくるバスを指差して何かを言っている。

「あっ、もうバス来ちゃった。相変わらず時間通りに来ないんだから!」

 どこか慌てた様子で舞恋が言う。

「バスがどうかしたの?」

「うん。実は私たち、これから二人で『ガーデンシティ』っていうショッピングモールに行くんだー」

「えっ?」

 何それ聞いてない、と抗議しかけた私に、舞恋はにひっと笑って、

「みさきちの相手は、あっち」

 と、語尾にハートマークが付いていそうな口調で言う。

 困惑したまま私がそちらへ目をやると、校舎の出入口のドアから、見覚えのある青年が姿を現した。

 思わぬ人物の登場に、私は目を瞬く。

 カヒンだ。

 彼はいつもの穏やかな笑みを浮かべて、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。

 彼の顔を見るなり、私は急激な胸の高鳴りを覚えて「うそ……」と思わず声を漏らしていた。

「今日は彼がキャンパスを案内してくれるんだって。存分に可愛がってもらいなよ、みさきち!」

「って、ちょっと舞恋!?」

 振り返ったときには、すでに彼女はバスに乗り込んだ後だった。
 がんばってねー、なんて窓から手を振りながら遠ざかっていく。

「Sorry, I’m late.」

 遅くなってごめんね、と謝るカヒンに、私は改めて向き直る。
 そうして彼の整った顔を目の前から見上げて、ぶんぶんと首を横に振った。

 舞恋が彼に案内を頼んだのだろうか。
 私は嬉しいけれど、彼の貴重な時間を私が独占してしまってもいいのだろうか……?

「So, why “ガンバッテ”?」

「えっ……?」

 ガンバッテ。

 彼の口から出た日本語に、私はハッとする。

 そういえば、彼はこの日本語の意味を知っているのだ。
 となれば、先ほど舞恋がなぜ私に向かって「頑張って」と言っていたのか、その意図が気になっても不思議じゃない。

「え、ええっと、その」

 おそらく舞恋は、私がカヒンともっとお近づきになれるよう頑張れと言ったのだろうけれど、

「I……I can’t speak English well. So, ……she said “ガンバッテ”!」

 私が上手く英語を話せないから。
 だから彼女から頑張れと言われたのだ、ということにしておく。

「Really? Don’t worry. You can do it.」

 大丈夫、問題ないよと言ってくれるカヒン。

(嘘だ……!)

 優しくしてくれるのはありがたいけれど、私は自分の英語レベルがどれくらい酷いのか自覚している。
 それこそ日本の同級生たちから笑われるほどなのだ。
 このままいつまでも上達しなかったら、カヒンにも迷惑をかけてしまう。

「I will……がんばる!!」

 両の拳をぐっと握りながら宣言すると、カヒンは「あはっ」と可笑しそうに笑った。

「You’re interesting……and so cute.」

 君は面白くて、可愛いね。

 また『cute』なんて単語を簡単に使われて、私は思わず赤くなってしまう。

「れ、れっつごー、カヒン!」

 できるだけ顔を見られないように、私はずんずんと足を踏み出して、このネイサンキャンパスの散策を開始した。
 
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