61 / 62
Chapter #4
彼のもとへ
しおりを挟むタクシーに揺られながら、私はぼんやりとこれからのことを考えていた。
舞恋に乗せられてつい勢いでここまで来てしまったけれど、カヒンには一体どんな顔をして会えばいいのだろう。
結局、彼を振り回すだけ振り回して、こんなギリギリの時間になってやっぱり会いたいだなんて、虫が良すぎるにも程がある。
けれど。
私は今、カヒンに会いたい。
そして彼はきっと、空港で私のことを待ってくれている。
ならば、会わない理由なんてどこにもないんじゃないか——と、そう思えるようになったのは、きっと舞恋が私に発破をかけてくれたおかげだろう。
とりあえずカヒンに連絡しなければと、私はスマホを取り出した。
しかし、
「…………ん?」
画面は真っ暗なまま、全く反応しない。
まさか電源が落ちている?
試しに電源ボタンを長押ししてみると、画面の中央にはバッテリー切れのマークが浮かび上がった。
「えっ、なんで……?」
今朝は確かにバッテリーは残っていたはず。
それが急に空っぽになってしまうなんて。
なんだかデジャヴのような——と考えたとき、私はハッとした。
そうだ。
このスマホは、今は使っていない古い方のものだ。
今から二ヶ月近く前、オーストラリアから日本へ帰る日に突然壊れてしまったあの機種だった。
あれからすぐに新しい機種に買い替えて使っていたけれど、そっちは今頃、私の部屋のベッドの上だろう。
間違えて壊れたスマホを持って来てしまったことで、私はカヒンに連絡する手段を失った。
(嘘でしょ……)
さあっと全身から血の気が引いていく。
けれど、舞恋はおそらくカヒンと連絡を取っている。
ならば私が空港に向かっていることもきっと伝わっているだろう。
彼に対して謝罪の一つもしないまま、いきなり顔を合わせるのは気まずいけれども、自分の蒔いた種なので致し方ない。
とにかく今は、ただ彼に会いたい。
その一心で、私は彼の元へと急ぐのだった。
やがて空港へ到着したのは、正午を少し過ぎた頃だった。
タイムリミットまであと二十分ほどしかない。
私は鬼の形相でロビーを横切り、数ある航空会社を端から一つずつ見て回った。
カヒンがどの飛行機で帰るのかはわからない。
けれど、午後一時半頃にオーストラリアへ向かう便を探せば何とか見つかるだろう。
程なくして、私はついにその姿を見つけた。
搭乗手続きのカウンターの近くで、ぼんやりと立っている長身のイケメン。
「Kahin!」
私が走り寄りながら呼ぶと、彼はすぐにこちらに気づいたようだった。
少量の荷物を詰めたバッグを肩に掛け直し、三歩ほど前に出て、ゆっくりとこちらを向く。
その顔には何の表情もなく、どこか冷たい印象を受けた。
(やっぱり、怒ってるよね……)
私がやっとのことで彼の前に辿り着き、肩で息をしていると、彼は無表情のまま口を開いた。
「Why did you come here?」
どうして来たの? と、彼はいつになく低い声で聞く。
0
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる