日本語しか話せないけどオーストラリアへ留学します!

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!

文字の大きさ
60 / 62
Chapter #4

舞恋の秘密②

しおりを挟む
 
「私もさ、転校してきてすぐの頃は、新しい環境に慣れなくてすごく不安だったんだよ。性格も今よりかなり大人しかったと思う。けど、みさきちが明るく声をかけてくれたから、クラスにもすぐに打ち解けることができたの。……大袈裟かもしれないけど、今の私があるのはあのときのみさきちのおかげだと思ってる。だからこそ、みさきちがあの英語の授業の後から急に後ろ向きになっちゃったのは、本当に残念だった」

「舞恋……」

 まさかそんな風に思ってくれていたなんて、私は今まで気づきもしなかった。

 思えば今までも、舞恋がどうしてこんなにも私に親身になってくれるのだろうと不思議に思ったことはあったけれど、そこまで深く考えたことはなかった。

 彼女は誰とでも仲良くできる。
 だから私とも友達でいてくれるのだと、そう思っていた。

「でも、舞恋。あの英語の授業でのことは……別に舞恋が悪いわけじゃないでしょ。みんなが笑ったのは私の発音がおかしかったせいだし、笑ってたのはクラスの全員なんだから、舞恋一人が悪いわけじゃないじゃん」

「ちがうの!!」

 食い気味で否定した舞恋は、声を震わせ、まるで幼い子どもみたいに泣きながら言った。

「あのとき……クラスで最初に吹き出して笑ったのは、私なんだよ……!」

 それを耳にした瞬間、私の脳裏で、当時の光景がフラッシュバックした。



 ——ずぃすいず、えあん、えあぽぉ。

 幼い頃の私がその一文を言い終えると、教室の中はしんと水を打ったように静まり返った。

 どうしたんだろう、と私が辺りを見渡したとき、

 ——……ぶふっ!

 と、後方の席に座っていた舞恋が一人盛大に吹き出して、それを合図に教室全体が笑いの渦に巻き込まれた。

 ぎゃはははは! と誰もが私を見て笑う。

 私は教室の真ん中で、ただただ顔を真っ赤にして俯いていた……。



「……私が最初に吹き出したから、それにつられて、みんな笑ったの。だからごめん、みさきち。本当は、ずっと謝りたかった。中学と高校で離れてた間も、みさきちのことを思い出す度に、また昔みたいに明るい性格に戻ってくれてたらいいなって思ってた。でも、大学で再会したとき、みさきちはやっぱり大人しくて、消極的だった。あの日のことがトラウマになってるんだってすぐにわかった。だから……みさきちが留学に行ってみたいって言い出したときは、チャンスだと思ったの」

「……チャンス?」

「海外留学をするとさ、性格が明るくなる子が多いんだって。だから、この機会を絶対に逃したくないって思ったの。みさきちがまた、昔みたいに戻ってくれるんじゃないかって」

 言われて、私は数ヶ月前の、まだ大学に入って間もない頃のことを思い出す。



 ——留学とか、一度は行ってみたいよねー。

 軽い気持ちで口にした言葉だった。

 それこそ『死ぬまでに一度は火星に行ってみたいよね』ぐらいの夢見心地で言ったつもりだった。

 けれど舞恋は、そんな私の軽口を真に受けて、

 ——うん、やろうよ留学!

 そう、二つ返事でオーストラリア行きを決めたのだった。



 あれは、舞恋の計算だったのだ。

 ただの勢いで賛成したわけじゃない。

 私のことを思って、良い結果に繋がることを期待して、私の言葉に乗ったのだ。

「みさきちがカヒンと出会って、少しずつ変わっていくのを見て、私は期待してたんだよ。いいぞ、その調子だって。カヒンもすごくいい奴だし、これから先も、みさきちのことを大事にしてくれるだろうなって安心してた。だから……日本に帰ってきて、みさきちがまた後ろ向きになったのを見て、居ても立っても居られなかった。せっかく良い人が出来て、お互いに好きなのに、自分から離れようとするなんて……そんなのおかしいって」

「舞恋……」

「ねえ、お願いだから前を向いてよ、みさきち。怖がらなくていい。誰に何を言われたって、別にいいじゃん。自分の気持ちに素直になってよ。周りの目に振り回されてないで、いま自分のやりたいことをやりなよ」

「私の、気持ち……」

 どうすればいい、じゃなくて、私がどうしたいか。

 怖がらなくていい。
 誰に何を言われたって、気にしなければいい。

 自分の生きたいように生きていいというのなら、私は。

「会いに行きなよ。カヒンが待ってるよ。みさきちも、本当はカヒンに会いたいんでしょ?」

「…………会いたいよ」

 会いたい。

 今すぐにでも。

 彼の胸に飛び込んで、大好きだよって、何度も伝えたい。

「……よし、言ったね。言質げんち取った!!」

 と、舞恋は急に普段の調子を取り戻すと、拳を天高く振り上げて喜んだ。

「えっ?」

「ほらほら、ぼさっとしてないで。カヒンに会いに行くんでしょ? 帰りの飛行機まで、もう時間がないよ!」

 いつのまにか、彼女の涙は乾いている。
 つい先程まで泣いていたとは思えないほど、今の彼女は元気だった。

「何。もしかして、さっきのは嘘泣き……?」

「嘘だなんて失敬な! 乙女の涙が幼馴染の心を動かした感動の名シーンだよ!」

 自分で言うなと思いつつ、彼女に急かされて私は身支度を整え始める。
 一体どこまでが演技だったのかはわからないが、最終的に心動かされてしまった自分が悔しい。

「カヒンの帰りの飛行機、昼の一時半に出発だって! 見送りは一時間前までだから、十二時半までに空港に着かないと間に合わないよ!!」

 洗面所で慌てて顔を洗いながら、舞恋の説明を聞く。

 現在は午前十一時。
 空港まではどれだけ急いでも車で四十分はかかる。

「今タクシー呼んだから! 十五分ぐらいでこっちに来るって!」

 お風呂に入っている暇はないので、ボサボサの髪はスタイリング剤で無理やり固める。
 メイクをする時間もほとんどない。

 なんとか妖怪から地味女子ぐらいまで見た目が回復した頃、タクシーは家の前までやってきた。

「みさきち、スマホ忘れてる!!」

 出発の直前、舞恋から放られたスマホを慌ててキャッチする。
 危なかった。
 これがないとカヒンと連絡が取れない。

「そんじゃ、カヒンによろしくね。幸運を祈る!」

 舞恋とはここでお別れだ。
 どうせタクシーなんだから一緒に乗っていけばいいのにと誘ったけれど、割り勘はごめんだと断られる。
 それが本心だったのか、あるいは空気を読んでくれたのか、どちらなのかはわからない。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。 ところが、見合い当日。 息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。 「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」 万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。 部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神楽囃子の夜

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。  年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。  四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。  

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...