京都先斗町のあやかし案内人 猫神様と迷える幼子

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第七章

見覚えのある子

 
 爽涼の風が吹く放課後。
 高校の敷地を出てバス停でバスを待っていると、ふわりと甘い香りが鼻先をくすぐった。

(いい匂い……。金木犀きんもくせいの香りかな?)

 十月の半ば。
 学校の制服は衣替えの時期になり、街のあちこちではコスモスの姿が目に入る。また多くのお店ではハロウィンの飾り付けがなされていて、いよいよ秋もたけなわといった雰囲気だった。

 例によって晩御飯の買い出しに向かった私は、四条河原町でバスを降りる。
 そうして鴨川に架かる四条大橋を渡っていると、周りの喧騒にまぎれて、何やら子どものすすり泣くような声が聞こえてきた。

(あれ?)

 どこかで子どもが泣いている、気がする。

 キョロキョロと辺りを見渡してみると、やがて橋の中ほどに、力なく座り込んでいる和装の子どもを見つけた。

 体の大きさからすると、小学校の低学年くらいだろうか。橋の欄干らんかんに背を預けて、両脚を前へ投げ出している。

 身にまとうのは、黒地に朱色のアクセントが入った束帯。髪はゆるいウェーブのかかった栗色で、その髪にまぎれて、獣のような耳が垂れ下がっている。

(あれは……犬の耳、かな?)

 驚かさないようにゆっくりと近づきながら、その子の姿をまじまじと確認する。

 髪の色と同じ栗色の毛を持つその耳は、ミニチュアダックスフンドを彷彿とさせた。
 これがもしハロウィンの仮装ではなく本物の耳だとしたら、この男の子はおそらくあやかしなのだろう。

 実際、いま周りを行き交う人々はこの子に目もくれないので、あやかしであることはきっと間違いない。

 それにしても……と、私は先ほどから気になっていたことに改めて首を傾げた。

(この子、前にもどこかで見たことがあるような……)

 ゆるいウェーブのかかった栗色の髪。と、そこから生えている犬の耳。
 それにこの黒い束帯姿も、どこか見覚えがあるような気がする。

 うーん、と悩んでいる間にも、男の子は小さくしゃくり上げて泣いている。
 そんな様子にハッと我に返った私は、慌てて彼のそばへしゃがみ込んで声を掛けた。

「ねえ。あなた、どうしたの? どうして泣いているの?」

 道に迷ったのか、お腹が空いているのか、あるいは怪我でもしているのか。

 私が返事を待っていると、男の子はようやくこちらの存在に気づいたようで、恐る恐るといった風に顔を上げた。
 そして、

「……うわっ!」

 心底驚いた様子で、見開いた目をこちらに向ける。

「あ、ごめんね。びっくりさせちゃったね」

 私がそう謝っている間も、彼は強張った表情を崩さなかった。
 その顔立ちは幼いながらも整っていて、将来はきっと美しく成長するのだろうなと思わせられるものだった。

 長いまつ毛に、垂れ目がちで大きな瞳。それにスッと通った鼻筋と、形の良い唇。
 見れば見るほど愛らしい顔——だけれど、私はますますその顔に見覚えがあるような気がしてくる。
 
感想 12

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