京都先斗町のあやかし案内人 猫神様と迷える幼子

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第六章

家族の今

 
          ◯


 大沢池の周りには散策路があり、歩いて十五分ほどで一周できる。

 とりあえず一周して小麦ちゃんの様子を観察してみたものの、反応は芳しくなかった。
 彼女の家族と思しき人物は見当たらず、私たちの足音だけが虚しく響く。

 やがて二周目に差し掛かると、時計の針はいつのまにか午後七時を回っていた。

 池の手前の方にある特設舞台では法要が始まったようで、袈裟を着たお坊さんたちがお経を唱えている。
 それを静かに見守る人々の間を縫って、私たちは忙しなく歩く。

 この法要が終われば、途端に帰り始める人もいるかもしれない。小麦ちゃんの家族も、私たちが見つける前にここを去ってしまう可能性がある。

 時間がない、と私は焦る。
 今日を逃したら、おそらくもうチャンスはないだろう。

「ねえ、小麦ちゃん。あなたの家族って、どんな人たちなの?」

 どんな人か、と聞いたところで、顔もわからない以上、私に手伝えることはないのかもしれない。
 けれど何もせずにただ見ているだけなのが歯痒くて、私は尋ねた。

 小麦ちゃんは不安げに辺りを見渡しながら、どこか遠い目をして答える。

「わたしの家族は、昔はたくさんいたけれど……ここ数年は、あの家に住んでたのはおばあさんが一人だけだった。少し前まではおじいさんも一緒だったけど、いつのまにかいなくなっちゃって」

 数年前までは、おじいさんとおばあさんが一緒に住んでいた。ということは、おじいさんは何か理由があって家を出て行ってしまったか、あるいは亡くなってしまったということだろう。

 二人の年齢はわからない。もしかしたら、かなりの高齢なのかもしれない。
 最悪の場合、そのおばあさんもすでに——と、嫌な予感が脳裏を掠める。

「あの……」

 と、不意に背後から声をかけられたのはそのときだった。
 私たちは一斉に声のした方を振り返る。

 見ると、そこにいたのは一人の男性だった。痩せ型で、年齢はおそらく四十代くらい。

「あの、何か探し物でもしたはるんですか? さっきから池の周りを回ったはるみたいですけど」

 男性はそう言って、探るような目をこちらに向けてくる。

 思えば私たちは、かなり怪しい動きをしているのかもしれない。もしかしたら不審者のように見られたのかなと、なんとなく気まずくなる。

「あー……えっと、そうなんです。あたしら、ちょっと探し物というか、人捜しをしてて」

 柚葉さんは苦笑いを浮かべながら、ぎこちなく答える。

 あまり詳しく質問されると、説明が難しくなる。できれば早めに切り上げたいと思っていると、男性はおもむろに、柚葉さんの手元へ目を落とした。

「……人捜しいうのは、その三方にも関係があるんですか?」

「え?」

 男性の視線は、まっすぐ小麦ちゃんの方へと注がれていた。

「その三方、かなり古いものですよね。うちの実家にあったものとよう似てたんで、なつかしいな思いまして」

 そんな男性の発言を受けて、私の胸にはわずかな期待が浮上する。
 
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