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第七章
いたずら
「犬神様って、あの犬神様ですか? ……この男の子が?」
幽世で警察のような役割を担っている彼。
言われてみれば、確かに面影がある。
ゆるいウェーブのかかった栗色の髪も、そこから垂れ下がるふわふわの犬耳も。身にまとっている黒い束帯も。幼いながらも整った顔立ちも。
何から何まで、あの彼にそっくりだ。
(でも、どうして子どもの姿に?)
問題はそこだった。
いつもは大人の姿でいる彼が、今はなぜこんなにも幼い子どもになっているのだろう?
「……猫め。この姿、貴様にだけは見られたくなかった。足の傷さえなければ、こんな場所からは早々に立ち去っていたものを」
はぁ、とゲンナリとした顔でそっぽを向く犬神様。
対する猫神様は、相変わらずの調子で犬神様のそばにしゃがみ込む。
「まあまあ、そう言わずに。その姿、誰かにいたずらをされたんですね? 強い妖力の残り香を感じます」
「いたずら?」
私がオウム返しに聞くと、猫神様は私にもわかるように説明してくれる。
「おそらく犬神様は、あやかしに術をかけられたんでしょう。それで無理やり子どもの姿にさせられてるんです」
「無理やりって……。どうしてそんなひどいことをするんですか?」
なんだか物騒な話だった。怪訝な顔をする私に、猫神様は穏やかな微笑を向けたまま続ける。
「犬神様は、幽世の治安と秩序を監視する存在です。悪事を働こうとするあやかしからすれば、大きな障害となるでしょう。ですから、そんな彼を逆恨みしたり、邪魔者扱いする者も少なくはありません。場合によっては、こういったトラブルに巻き込まれることもあります」
淡々と説明された話に、私は息を呑む。
「じゃあ、犬神様はいま誰かに狙われているってことですか? それって危険なんじゃ……」
「そうですね。妖力の残り香からは、特に悪意のようなものは感じられませんが……。とりあえず、私のところへ避難しましょか。そこでゆっくりお話を聞きましょう」
ね、と猫神様が笑いかけたものの、犬神様はぷいっと顔を背けてしまう。
「誰が貴様なんぞの世話になるものか。俺は他人に借りを作るのが嫌いなんだ」
「そうは言いましても、他に行くアテはあるんですか? 見たところ、そのお姿では術も使えなさそうですし。それに、私のところに来れば寝泊まりできるお部屋もありますし、ご飯もありますよ」
ご飯、という単語を耳にした瞬間、犬神様のお腹が「ぐうううぅぅぅー……」と長めの音を響かせた。
おそらくは反射的に鳴ったのだろうその音に、犬神様は顔を真っ赤にさせ、私は思わず噴き出しそうになるのを堪える。
「どうやらお腹も空いてるようですね。さあ、一緒に行きましょう」
そう言って、猫神様は半ば強引に犬神様の体を持ち上げ、赤子のように抱っこする。
「きっ、貴様。やめろ、放せ! 子ども扱いするな——っ!!」
途端に暴れ出し、奇声を発する彼を宥めながら、私たちはさっさと先斗町を目指すのだった。
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