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第七章
常習犯
◯
足のケガは軽い捻挫のようだった。
犬神様曰く、慣れない子どもの体で転倒した際に、足首を捻ってしまったらしい。
猫神様は先斗町にある例の狭間の場所へ帰り着くなり、テキパキと応急処置をした。
赤く腫れた右足首を氷嚢で冷やし、テーピングを施した後、犬神様を布団の上に横たえて、患部を心臓よりも高い位置で固定する。
「これでよし、と。後で湿布も貼りましょう。しばらくはこのまま安静にしといてくださいね」
そう言ってにこりとする猫神様とは対照的に、犬神様は未だ不機嫌な顔をしていた。
「……これしきの傷、本来の俺ならどうということもないのに。……くそっ」
悔しげに唇を噛む彼を見下ろして、猫神様は「そうですねえ」と肩をすくめる。
「残念ながら、私には治癒の術は使えませんから……。その代わり、あなたを幽世へ送り届けることはできますよ。よければ、お仲間のもとへ案内しましょか?」
「いや。幽世にはまだ帰らない。俺は一刻も早く、あの男を捕まえねばならんのだ」
あの男。
一瞬誰のことだろうと考えて、ああそうか、と私は思い出す。
「もしかして、犬神様に術をかけたあやかしを追うつもりですか?」
「無論だ。あの男はまだ半人前にもかかわらず、こちらの世界へ忍び込んだ。それも初犯じゃない。奴は何度も何度も、我々の目を掻い潜って幽世を抜け出している」
「おや、常習犯ですか。まだ半人前やのに強い妖力を持ったはるようですし、なかなか手強そうですねえ」
どこか感心するように言った猫神様を、犬神様は忌々しげに睨む。
「奴は貴様とも面識があったはずだぞ。初犯のときは、貴様が案内人として幽世に送り帰したはずだ」
「おや、そうでしたか。その方のお名前は?」
「銀弥だ。ぬらりひょんの銀弥。覚えがあるだろう」
「銀弥。……ああ、なるほど。あの子ですか」
懐かしいですねぇ、と微笑む猫神様。
一体どんな人なんだろうと私が考えていると、彼はまたこちらに説明するようにして言った。
「銀弥さんは、けっして悪い子ではありませんよ。ちょっとやんちゃなところはありますけど」
「貴様の記憶は古すぎる。奴はもう子どもじゃないんだぞ。それに、まだ半人前とはいえ、ぬらりひょんは妖力が高い。そのうえ周りのあやかしを巻き込む影響力を持っている。あれを野放しにしていれば、そのうち何をしでかすかわからん」
義憤に駆られ、今にも布団を抜け出してしまいそうな彼を、猫神様はどうどうと宥める。
「さすがにその状態で捜すのは無理やと思いますよ。術も使えない上、足もまだ満足には動かせないようですし。今回はここで大人しくして、他の方々に任せといた方がええんやないですか?」
「この一大事に、俺だけが大人しくしていられるか。それにどちらにしろ、俺にかけられた術を解けるのは本人だけだ。とにかく一刻も早くあいつを——」
ぐううぅぅー……と、またもや犬神様のお腹が盛大に鳴った。
たちまち顔面が茹で蛸のようになる彼を見て、猫神様はくすりと笑う。
「とりあえず、ご飯にしましょか。奥で用意してきますんで、ゆっくりしといてくださいね」
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