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第七章
食欲の秋
◯
里芋の煮っ転がしと、松茸や鱧、銀杏などが入った土瓶蒸し。ほかほかの白ご飯としば漬けに、メインはサバの照り焼き。
相変わらず旬の食材をふんだんに使った猫神様の手料理が、卓上にずらりと並ぶ。
「お、おいしそう……」
食欲の秋とはよく言ったもので、夏バテから解放された胃は目の前のご馳走を今か今かと待ち望んでいる。
「さあ、お二人とも。冷めないうちに召し上がれ」
「いただきます!」
私はすぐさま手を合わせ、まずはサバの照り焼きに箸を伸ばした。
てらてらと光るタレが絡んだ身は、ふっくらとしてやわらかい。それを小さく切って口に運ぶと、途端に香ばしい甘さが舌の上に広がる。
「うぅー……やっぱりおいしい」
ほっぺが落ちそうなほど美味だ。
幸せに浸りながら、ふと隣を見てみると、同じように食卓についた犬神様は里芋をひょいひょいと口へ放り込んでいた。
小さい体でありながら、なかなかの食欲だった。その様子を見る限り、やっぱりお腹が空いていたんだろうなと思う。
私は次に土瓶蒸しへ手を伸ばした。
実は土瓶蒸しを食べるのは初めてで、正しい手順はよくわかっていない。
とりあえず土瓶のフタを開けてみると、テーブルの向こうから猫神様が慌てて声をかけてきた。
「ああ、桜さん。まだフタを開けるのは早いですよ」
「えっ。そうなんですか……?」
どうやら順番を間違えてしまったようで、ちょっとだけ恥ずかしくなる。
猫神様のレクチャーによると、土瓶蒸しはまずお猪口にお出汁を注いで、香りを味わってからいただくのだという。
教わったとおりにやってみると、お出汁は松茸の芳醇な香りを漂わせ、具材の旨みと絶妙に絡み合って、やさしくも奥深い味わいがあった。
「こうしてまずはお出汁だけを飲んだ方が、より素材の味が感じられて美味しいんですよ」
あとはフタを開けてすだちを絞ってみたり、中の具材を食べたりするらしい。
なんだかお上品な食べ方だなと思って、私は特別な気持ちになった。
「それで、犬神様。銀弥さんの居場所については目星は付いてるんですか?」
猫神様が聞いた。
犬神様が追っているという、ぬらりひょんの銀弥さん。一体どんな人なんだろうと、私は一人ぼんやりと考える。
「ああ。まだはっきりとした場所までは絞り込めていないが、移動範囲は大方把握している。いくつか目撃情報があってな。そのほとんどが嵐山電鉄の車内だったそうだ」
「嵐山電鉄……なるほど、嵐電ですか」
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「目撃者のほぼ全員が、銀弥の方から話しかけられたらしい。中でも女のあやかしはしつこくナンパされたと証言していたな」
「な、ナンパですか……?」
予想外のワードに、私は思わず聞き返していた。
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もしかしたらチャラい人なのかな——と考えていると、その疑惑を晴らすように猫神様が言った。
「銀弥さんはおしゃべりが大好きで、誰ともでも仲良くなろうとしますからね」
あくまでも銀弥さんの肩を持とうとする猫神様に、犬神様は「ふん」と鼻を鳴らしていた。
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