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第七章
暴君
◯
お腹がいっぱいになると、犬神様はまだその手にお箸を持ったまま、うつらうつらと船を漕ぎ始めた。
「おや、犬神様。お疲れのようですね。そろそろお布団へ行きますか?」
そんな猫神様の声でハッと目を覚ました犬神様は、両の拳でぐりぐりと目元を擦りながらぼやく。
「くそ……。子どもの体だと、すぐに眠くなってかなわん。それにすぐに転ぶし、腹も空くし、涙腺も緩いし……」
ブツブツと文句を並べ立てる犬神様。
そういえば、さっき四条大橋で彼を見つけたときも泣いてたっけ、と私は思い出す。
見た目だけでなく、中身まで幼くなってしまった彼をつい可愛いと思ってしまう。けれどそれを本人に伝えたら怒られそうなので、私は心の内に留めることにした。
猫神様は寝ぼけ眼の犬神様をそっと抱き上げると、別の部屋へ運んでいった。もはやされるがままの犬神様は、本物の子どもにしか見えない。
それから五分と経たないうちに、猫神様は一人で戻ってきた。
「どうやら、元の体に戻せるのは銀弥さんだけというのはほんまのようですね。私も試しに術をかけてみましたが、効果はありませんでした」
「そうですか……」
やはり一刻も早く、銀弥さんを捜し出さないといけない。
「あの、猫神様。私、明日は土曜日で学校が休みなんです。だから、よければ明日は私も一緒に行ってもいいですか?」
私一人がついて行ったところで、手伝えることはほとんどないかもしれないけれど。それでも、何もせずに待っているのは落ち着かない。
「ええ、もちろん。桜さんさえよければ、一緒に捜してもらえると助かります」
猫神様はそう、いつもの優しい笑みを浮かべて了承してくれた。
彼につられて、私も思わず笑顔になる。
「では、明日の朝は桜さんのお家までお迎えに上がりますね」
待ち合わせの時間を決めてから、私は帰路に就いた。
例によって猫神様は巨大な獣の姿になって、その背中に私を乗せてくれる。秋の夜空を飛翔し、もふもふの毛に埋れながら、私はぼんやりと銀弥さんのことを考える。
(銀弥さんも何か、この現世に未練があるのかな……)
過去に何度もこちらの世界へ迷い込んでいるという銀弥さん。
その目的は一体何なのか。
——銀弥さんは、けっして悪い子ではありませんよ。ちょっとやんちゃなところはありますけど。
悪い子ではない、と猫神様は言っていたけれど、やんちゃでおしゃべりで、女性にナンパした疑いのある銀弥さん。それに犬神様を子どもの姿にしたり……と、考えれば考えるほど暴君のようにも思えてくる。
彼の人物像はますますわからなくなるばかりだけれど、
(まあ、今は考えても仕方ないか)
今日のところはそう結論づけて、私は目の前のもふもふの毛を堪能することにした。
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