54 / 96
第七章
幼い二人組
階段に腰掛けた二人組の子ども。
抱き合うようにくっついている彼らは、どちらも山伏のような格好をしていた。その背中からは、小さな黒い翼が生えている。
やけに見覚えのあるあやかしだな——と私が思っていると、猫神様は獣の姿のまま、朗らかな声で語りかけた。
「おや。烏天狗のお二人やないですか」
烏天狗。
それも二人組の——という状況と、犬神様たちの反応を見て、私はもしやと思った。
「あれ。もしかしてこの子たち……いつも犬神様と一緒にいるあのお二人ですか?」
犬神様の部下である、二人の烏天狗。
私も過去に一度だけ会ったことがある。そのときは二人とも大人の姿だったけれど、今は犬神様と同じように子どもの姿になっている。
彼らはようやくこちらに気づいたようで、お互いの体に抱きついたまま、その幼い顔を上げた。露わになった目元は、涙に濡れて真っ赤になっている。
「い、犬神様……?」
震える声でそう呟いた直後。彼らは勢いよく立ち上がって、蹴つまずきそうになりながらこちらへ駆け寄ってきた。
「犬神様ぁ……ッ!」
泣きながら走ってくる彼らに応えるように、犬神様は猫神様の背中から飛び降りると、その小さな体で二人を抱き留めた。
「こら。お前たち、幽世で大人しくしておけと言っただろう! なぜこっちの世界に来た!?」
「だ、だって……犬神様のことが心配だったから……っ」
彼らの会話を聞いていると、私もなんとなく状況が掴めてきた。
どうやらこの烏天狗の二人も犬神様と同様に、銀弥さんに術をかけられてしまったらしい。
そうして子どもの姿になった二人を犬神様は幽世へ置いてきたみたいだけれど、二人とも犬神様の身を案じて、結局はこちらの世界へ迷い込んでしまったのだ。
「ぐすっ……。み、道はわからないし、銀弥の気配もたどれないし、術も使えないし……錫杖もどこかに落としちゃったし……。うぅ……」
もはや本物の幼子のごとく泣きじゃくる二人。その様子からは、普段の威厳など微塵も感じられない。
そんな彼らを犬神様が宥めている間に、ホームには電車が到着して、それまでイスに座って待っていたおばあさんが乗り込んでいった。
やがて走り去っていく電車を見送って、周囲に人の目がないことを確認してから、私はようやく猫神様の背中から降りた。
直後、猫神様はポンッと白煙を上げて白い青年の姿に戻る。
「なかなか泣き止みませんね」
そんな猫神様の言葉通り、烏天狗の二人はひたすら犬神様の胸の中で泣きじゃくっていた。
「……これでは役に立たん。おい猫、この二人をあっちの世界に送り帰せ」
「そうですね。さすがに私も、三人の幼子を一気に引き取るのは難しいんで」
犬神様に促されて、猫神様が烏天狗たちに近づこうとすると、
「ま、待ってください! 犬神様をここに一人残して帰るなんて、そんなこと……!」
二人はイヤイヤと首を振って、犬神様にしがみつく。
しかし犬神様は、
「心配するな。俺はそう簡単にやられたりしない。それに、今は猫もついている」
そう言って、二人の頭を優しく撫でる。
猫もついている——それはつまり、犬神様もなんだかんだで猫神様を頼りにしているということだ。
その事実に、私はちょっとだけ嬉しくなる。
烏天狗たちは未だ納得はしていなかったものの、犬神様の言うことを聞いて渋々あちらの世界へ帰ることになった。
猫神様が二人の前に跪き、その小さな手の甲にそっと口付けを落とすと、彼らは真っ白な光に包まれて静かに消えていった。
あなたにおすすめの小説
あやかし警察おとり捜査課
紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く
液体猫
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/
香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。
ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……
その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。
香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。
彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。
テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。
後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。
シリアス成分が少し多めとなっています。
「お前は妹の身代わりにすぎなかった」と捨てられた養女——でも領民が選んだのは、血の繋がらない姉の方だった
歩人
ファンタジー
孤児のフィーネは伯爵家に引き取られた。
病弱な令嬢エーデルの「代役」として。社交も、領地管理も、使用人の采配も——
全て「エーデル様」の名前で、完璧にこなしてきた。
十一年後。健康を取り戻したエーデルが屋敷に帰還した日、伯爵は言った。
「もう用済みだ、出ていけ」
フィーネは静かに屋敷を去った。
それから一月もしないうちに、領民たちが伯爵に詰め寄った。
「前のお嬢様を返してください」
『ブスと結婚とか罰ゲーム』と言われた商人令嬢ですが、結婚式で婚約者の不正を暴いたら幼馴染の騎士様が味方でした
大棗ナツメ
恋愛
「なんで、お前みたいなブスと結婚しないといけないんだ」
そう言い放ったのは、結婚を一週間後に控えた婚約者だった。
商人の娘エフィは、持参金目当ての政略結婚を受け入れていたが、彼からは日常的に「ブス」「価値がない」と罵られていた。
そんなある日、エフィは父の商会の帳簿から男爵家の不審な金の流れを発見する。
さらに婚約者が娼婦と歩いているところを目撃し――
「泣く暇があるなら策を考えなさい」
昔、自分が言った言葉を思い出したエフィは決意する。
結婚式の日、すべてを暴くと。
そして再会したのは、かつて「姉さん」と慕ってくれた幼馴染の騎士レオンだった。
これは、ブスと蔑まれた商人令嬢が、
結婚式で運命をひっくり返す逆転劇。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!
山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。