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第八章
二人の時間
「すみません、桜さん。あなたが疲れてると知りながら、外に連れ出してしまって」
「い、いえ! 猫神様が謝ることなんて全然ないです! 私もここの景色を見てみたかったですし、それに、誘ってもらえて嬉しかったので……」
最後の方はちょっとだけ照れくさかったけれど、本音だった。
猫神様と一緒にいられることが、こんなにも嬉しい。せっかくこうして彼と二人でお出かけしているのに、居眠りしてしまうなんてもったいない。
それに、十一月下旬の清水寺はまさに紅葉の真っ盛り。この時期にしか見られない貴重な景色を、しっかりと目に焼き付けねば。
そう思って改めて顔を上げた瞬間、
「……あれ?」
ふと視界に入った人物の姿に、私は違和感を覚えた。
私の横、数メートルの位置に立つ一人の女性。姿勢の良い体に纏っているのは、黒の法衣に白い頭巾。
(もしかして、尼さんかな……?)
おそらくは仏教徒の尼僧と思しき格好。多くの観光客が集うこの場所で、彼女の姿だけが一人浮いている。
もしかしてここのお寺の人かな? とも思ったけれど、それにしては仕事をしているような素振りはない。
彼女はただ周りをキョロキョロとしているだけで、どちらかというと、慣れない場所で狼狽えているように見えた。
「あの女性は、あやかしですね」
隣から、猫神様が言った。どうやら私の視線に気づいてくれたらしい。
「え。あの人もあやかしなんですか?」
「ええ。見た目は普通の人間のようですが、気配はあやかしのそれです」
白い頭巾の奥に見える顔は、私より少し年上くらい。陶器のような白い肌に、整った目鼻立ち。儚げな美女といった雰囲気の彼女は、まるであやかしには見えない。
「彼女はおそらく、 八百比丘尼のあやかしでしょう」
「やおびくに?」
「とても長い年月を生きるという、女性のあやかしです。およそ八百年は生きると言われてることから、『八百』の文字が使われてます」
八百年。
確かにものすごい長寿だな——とは思うものの、目の前にいる猫神様はさらに長い年月を生きているはずなので、なんだか感覚がバグってしまう。
「彼女はまだ半人前のようですから、この世界には慣れてないんでしょうね」
「半人前? それじゃあ、あの人もこの世界に迷い込んで困ってるんでしょうか」
一体どういう経緯があったのかはわからないけれど、おそらくはこの現世に迷い込んだあやかし。
だとしたら助けないと——と、足を踏み出そうとした私の肩を、猫神様の手が後ろから引き留めた。
「……猫神様?」
どうしたんだろう、と彼を見上げると、彼はいつになく神妙な顔でこちらを見つめていた。
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