24 / 96
第五章
思い出の風景
「思い出せること、か」
栗彦くんは両腕を組み、うーんと頭を悩ませる。
そして、
「あのときは彼岸花だったが……春には桜、それから梅雨の時期には紫陽花も咲いていたな。近くに大きな寺があって、そこに群生する紫陽花を多くの人間が見物に来ていた」
「お寺の境内に紫陽花、ですか」
どこか納得したように猫神様が呟く。
もしかしたら、何か思い当たることがあったのかもしれない。
私からすれば、お寺に紫陽花が咲いていたと言われても、それだけでピンとくる場所は特になかった。
紫陽花はそれほど珍しい花でもないし、それに何より、この京都には有名なお寺があちこちに点在している。
けれど猫神様は、
「大原にある三千院では、毎年あじさい祭りが開催されてますね。花の見頃の時期に合わせて訪れる方も多いでしょう」
大原にある三千院。
私も名前だけは聞いたことがあった。
どうやら猫神様が怪しいと睨んでいるのは、そのお寺があるエリアのようだ。
「紫陽花の名所とされているお寺は他にもありますけど、田園風景に囲まれてるとなると、やはり大原の線が濃いように思います」
田園風景に囲まれた、紫陽花の名所であるお寺。その特徴は、栗彦くんの記憶にある場所と一致する。
「桜さん」
と、猫神様が唐突に私の名を呼ぶ。
完全に気を抜いていた私は、慌てて「は、はいっ!?」と返事をした。
「すみませんが、ネットで『三千院』と検索してもらえませんか。写真などがあれば、栗彦さんも確認できると思いますんで」
言われて、そうか、と気づく。
現地の写真を栗彦くんに見せれば、場所を特定できるかもしれない。
「……わかりました!」
それまでただ横で見ているだけだった私にも、できることがある。自分も栗彦くんの役に立てるかもしれないと思うと嬉しくて、つい笑みが零れる。
そうして制服のポケットから取り出したスマホで、すぐさま三千院と検索した。ほどなくして、画面には三千院の境内と思しき写真がずらりと並ぶ。
背の高い木々に囲まれた、緑鮮やかな庭園。足元には美しい苔が広がり、そのところどころには小さなお地蔵様の姿もある。
春は桜、秋は紅葉。それらの写真に紛れて、青い紫陽花が咲き乱れる様子も映し出されている。
「ここは……確かに見覚えがある」
いつのまにか、栗彦くんは私の右肩に移動してスマホの画面を覗き込んでいた。
「やっぱりここが、栗彦くんの記憶にある場所なの?」
試しに、今度は『京都 大原』と検索してみる。
すると、そこに映し出されたのどかな田園風景に、栗彦くんはさらに強く反応した。
「やはり、似ている。自分が前世で暮らしていたのは、この辺りかもしれない」
ほぼ確信したように栗彦くんが言って、私と猫神様は無言で頷き合った。
「では、早速そこへ向かってみましょか。日が暮れてしまう前に確認しましょう」
言いながら、猫神様はその場に立ち上がって玄関の方へと向かう。
私も栗彦くんを肩に乗せたまま、同じように部屋を後にした。
あなたにおすすめの小説
あやかし警察おとり捜査課
紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く
液体猫
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/
香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。
ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……
その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。
香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。
彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。
テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。
後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。
シリアス成分が少し多めとなっています。
「お前は妹の身代わりにすぎなかった」と捨てられた養女——でも領民が選んだのは、血の繋がらない姉の方だった
歩人
ファンタジー
孤児のフィーネは伯爵家に引き取られた。
病弱な令嬢エーデルの「代役」として。社交も、領地管理も、使用人の采配も——
全て「エーデル様」の名前で、完璧にこなしてきた。
十一年後。健康を取り戻したエーデルが屋敷に帰還した日、伯爵は言った。
「もう用済みだ、出ていけ」
フィーネは静かに屋敷を去った。
それから一月もしないうちに、領民たちが伯爵に詰め寄った。
「前のお嬢様を返してください」
『ブスと結婚とか罰ゲーム』と言われた商人令嬢ですが、結婚式で婚約者の不正を暴いたら幼馴染の騎士様が味方でした
大棗ナツメ
恋愛
「なんで、お前みたいなブスと結婚しないといけないんだ」
そう言い放ったのは、結婚を一週間後に控えた婚約者だった。
商人の娘エフィは、持参金目当ての政略結婚を受け入れていたが、彼からは日常的に「ブス」「価値がない」と罵られていた。
そんなある日、エフィは父の商会の帳簿から男爵家の不審な金の流れを発見する。
さらに婚約者が娼婦と歩いているところを目撃し――
「泣く暇があるなら策を考えなさい」
昔、自分が言った言葉を思い出したエフィは決意する。
結婚式の日、すべてを暴くと。
そして再会したのは、かつて「姉さん」と慕ってくれた幼馴染の騎士レオンだった。
これは、ブスと蔑まれた商人令嬢が、
結婚式で運命をひっくり返す逆転劇。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!
山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。