京都先斗町のあやかし案内人 猫神様と迷える幼子

紫音みけ🐾書籍2冊発売中!

文字の大きさ
34 / 96
第六章

クラスメイトからの依頼

 
「じゃあね、天沢さん。また明日!」

「うん。また明日」

 放課後。二年一組の教室で、私はクラスメイトたちと手を振り合う。
 お互いに笑顔で、明日またここで会えることを楽しみにしながら、それぞれ帰路に就く。

 少し前までは、こんな風に自然と挨拶ができるなんて夢のまた夢だった。

 普通の人と違ってあやかしの姿が見える私は、周りから気味悪がられることを恐れるあまり、クラスメイトたちと自ら距離を取っていた。
 気軽に話せる友達もおらず、これからもずっとそんな生活が続いていくと思っていた私に、まさかの転機を与えてくれたのは柚葉ゆずはさんの存在だった。

 彼女が私と友達になってくれたから。今ではこうして、私も無事にクラスに溶け込むことができている。

「あー! 待って待って、天沢さん!」

 と、教室を出ようとした私を呼び止めたのは、その柚葉さんだった。彼女はトレードマークのサラサラセミロングの髪を揺らしてこちらへ駆け寄ってくる。

「どうしたの、柚葉さん?」

 どこか慌てた様子の彼女に、私は首を傾げる。
 彼女はこちらの目の前まで迫るなり、辺りをキョロキョロと警戒してから、私にだけ聞こえる声で言った。

「天沢さん。今日も、猫神様のところに行くん?」

「えっ」

 彼女の口から転がり出た名前に、私は驚く。

 柚葉さんは猫神様のことを知っている。彼女の目にはあやかしの姿は映らないけれど、猫神様は特別な力で人間の姿になることができるので、二人は面識があるのだ。
 とはいえ、柚葉さんの方から彼のことを話題にするのは珍しい。

「えっと……。今日は猫神様と会う約束はしてないから、まだわからないけど」

「あのさ。よかったら、あたしを彼のところに連れてってくれへん?」

 この通り! と、彼女は顔の前で手を合わせる。
 対する私は、いきなりのことにぽかんと口を開けて固まってしまった。

(柚葉さんが、猫神様に会いたがってる……?)

 一体なぜ、と考えたとき、わずかに胸の奥がざわめいた。

 あやかしが見えないはずの柚葉さんが、猫神様に会いにいく理由。それはきっと、あやかし絡みではないはずだ。
 なら彼女は、猫神様という一人の男性にただ会いに行きたいということなのだろうか。
 そう思うと、なぜだか心がそわそわとして落ち着かない。

「その……理由を聞いてもいい?」

 私が恐る恐る聞くと、柚葉さんはこくりと頷いて、すぐさま自分の席へと逆戻りした。それから何か荷物を手に取って、再びこちらへ駆け寄ってくる。

「これ! これのことについて、猫神様の意見が聞きたいねん!」

 どこか切羽詰まった様子で彼女が目の前に差し出してきたのは、一つの紙袋だった。中にはダンボール箱に梱包された何かが入っていて、彼女はそれを丁寧な手付きで取り出す。

 そうして現れたのは、木製の台のようなものだった。独特な形をしたそれを、私も見たことがある。

「それってもしかして、お月見のときにお団子を載せる台……かな?」
 
感想 12

あなたにおすすめの小説

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/  香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。  ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……  その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。  香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。  彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。  テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。  後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。  シリアス成分が少し多めとなっています。

「お前は妹の身代わりにすぎなかった」と捨てられた養女——でも領民が選んだのは、血の繋がらない姉の方だった

歩人
ファンタジー
孤児のフィーネは伯爵家に引き取られた。 病弱な令嬢エーデルの「代役」として。社交も、領地管理も、使用人の采配も—— 全て「エーデル様」の名前で、完璧にこなしてきた。 十一年後。健康を取り戻したエーデルが屋敷に帰還した日、伯爵は言った。 「もう用済みだ、出ていけ」 フィーネは静かに屋敷を去った。 それから一月もしないうちに、領民たちが伯爵に詰め寄った。 「前のお嬢様を返してください」

『ブスと結婚とか罰ゲーム』と言われた商人令嬢ですが、結婚式で婚約者の不正を暴いたら幼馴染の騎士様が味方でした

大棗ナツメ
恋愛
「なんで、お前みたいなブスと結婚しないといけないんだ」 そう言い放ったのは、結婚を一週間後に控えた婚約者だった。 商人の娘エフィは、持参金目当ての政略結婚を受け入れていたが、彼からは日常的に「ブス」「価値がない」と罵られていた。 そんなある日、エフィは父の商会の帳簿から男爵家の不審な金の流れを発見する。 さらに婚約者が娼婦と歩いているところを目撃し―― 「泣く暇があるなら策を考えなさい」 昔、自分が言った言葉を思い出したエフィは決意する。 結婚式の日、すべてを暴くと。 そして再会したのは、かつて「姉さん」と慕ってくれた幼馴染の騎士レオンだった。 これは、ブスと蔑まれた商人令嬢が、 結婚式で運命をひっくり返す逆転劇。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

神楽囃子の夜

紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。  年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。  四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。