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獲物は反撃を開始する
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これで移動は六度目になる。アムータスを出てから、既にニ週間以上経った。
夜に着いた時には分からなかったが、ここはとても大きな街だ。
所謂城下町と言う奴で、街の中心にはシンデレラ城を思わせる美しく立派な城がそびえ立っている。
「わあ! 本物のお城初めて見た!」
テレビやテーマパークなどでしか見た事のなかった白亜の城に早苗は大感激だ。
「どの辺? ミリウス様が言ってたの」
「歓楽街って言ってたぜ? 金と銀のニ人組って話だった」
喜ぶ早苗を他所に、アルとアウインのニ人は何やら話し込んでいる。
この街に来たのは宝石商としての仕事の為だけではないらしい。
アウインの師とやらに『金と銀のニ人組』なる者達と合流するよう指示されたのだとか。
実を言うと、この旅の途中同じようにミリウスとやらからの指示で誰かを助けたり説得したりして、既にニ人の人物をアムータスに連れて行っている。
行き場の無い人々の救済、と言えば聞こえは良いが、アル達を支持する国民を増やす事が主目的なのだろう。
「ねぇねぇ、金と銀のニ人組って、具体的にどんな人達なの? 性別は?」
「さあ? 金と銀のニ人組、歓楽街、正午、合流しろ、としか言われてねーよ」
「ま、あの方の言う事だからね……」
あれこれ質問するが、要領を得ない答えが帰って来るばかりだ。
歩いている内に歓楽街の入口に到着した。夜には賑わうのだろうが、まだ人通りは疎らだ。
「歓楽街だけど、どうする? 待つ? ちょっと移動してみる?」
「……待て、後7秒で丁度正午だ。3……2……1……0」
「きゃああああ!!!!」
懐中時計を見ながらアウインが『0』と言った瞬間、すぐ側で女性の悲鳴が響き渡った。
「!?」
声のした方を振り返ると、フードを目深に被ったニ人組が屈強な男ニ人に連れ去られそうになっている。
アルとアウインの行動は素早かった。早苗が振り返った時には、もう走り出していたのだ。
アウインは片方の男の首に勢い良くラリアットを決める。やられた男は、それは見事に吹っ飛んだ。走って勢いを付けたとは言え不自然なほどに。
「がふっ!!」
吹き飛ばされ地面が割れるほど背中をぶつけた男は、喉か内臓を損傷したのか口から血を吐いている。
一方アルはもうニ人の男の頭に回し蹴りを繰り出していた。よくあんなに高く足が上がるものだと感心する。
そしてなんと、その足には赤い炎を纏っていた。と言う事は、きっとアウインも同じように魔法を纏って攻撃したのだろう。
「ひぎああ!!!!」
髪に炎が燃え移った男は絶叫し、その場にゴロゴロと転がりもがいている。なかなかに残酷な技だ。
早苗はニ人の戦う様子を呆然と見ていたが、ふと視界の端にフードのニ人組が去って行く姿が映る。ハッとして追い掛け、ニ人の前に回り込み両手を広げた。
「ま、待ってください!!」
「なんだお前は!!?」
声からして女性のようだ。逃げようとするニ人を、早苗は必死に通せんぼする。
「そこを退け! 小僧め!」
「なっ?! 小僧じゃないし!」
「ええい! 退かんか!!」
シャッ!1人がナイフを取り出し斬りつけて来た。
「うわあっ!!?」
白いシャツがスパッと切れる。切れ味が良い。胸に鋭い痛みが走った。
「サナエ!!」
「きゃあ!?」
いつの間にか駆け付けて来たアルが、女の手のナイフを叩き落とす。
「俺達は敵じゃねぇ! 話を聞け!!」
アウインがニ人組に向かって怒鳴る。
「くっ……」
その剣幕にたじろいだニ人は動きを止めた。
「サナエ、大丈夫……?」
「う、うんっ、平気平気……」
早苗は青い顔で胸元を押さえている。シャツにはじわじわと赤いものが滲んで来た。
「血が……治してあげる、端に行こう」
「う、うん……」
傷の場所が場所だけに、人に見られないようにしたい。
「黒いの、そこの女共、囲め。黒いのは背を向けろよ」
彼は怒っているようだ。アウインとフードのニ人は、逆らえない空気につい従ってしまう。
「……手を離して、見せて?」
早苗の傷は、思ったより大きい。右胸から左胸にかけて、真っ直ぐに斬られている。
痛々しい傷に顔を歪めながら、アルは傷口に手を翳かざす。右から左へ、ゆっくりと手を移動させて行く。
「あ……凄い……痛くない……」
「………………」
アルは布で血を拭い、傷を確かめる。じっと見詰めたかと思うと、右胸をそっと指でなぞった。
「……っ」
「…………ごめん、傷、残った」
言われて、パッと自分の胸元を見る。一瞬分からなかったが、右胸の乳輪の上辺りに長さニセンチほどの薄い傷痕を見つけた。
「あ……なんだ、小さいし平気だよ」
笑って見せるが、彼は笑わない。
くるっと身体を反転させたアルは、ニ人組の一人からフード付のローブを強引に剥ぎ取った。
「きゃあ! 何をする!」
夜に着いた時には分からなかったが、ここはとても大きな街だ。
所謂城下町と言う奴で、街の中心にはシンデレラ城を思わせる美しく立派な城がそびえ立っている。
「わあ! 本物のお城初めて見た!」
テレビやテーマパークなどでしか見た事のなかった白亜の城に早苗は大感激だ。
「どの辺? ミリウス様が言ってたの」
「歓楽街って言ってたぜ? 金と銀のニ人組って話だった」
喜ぶ早苗を他所に、アルとアウインのニ人は何やら話し込んでいる。
この街に来たのは宝石商としての仕事の為だけではないらしい。
アウインの師とやらに『金と銀のニ人組』なる者達と合流するよう指示されたのだとか。
実を言うと、この旅の途中同じようにミリウスとやらからの指示で誰かを助けたり説得したりして、既にニ人の人物をアムータスに連れて行っている。
行き場の無い人々の救済、と言えば聞こえは良いが、アル達を支持する国民を増やす事が主目的なのだろう。
「ねぇねぇ、金と銀のニ人組って、具体的にどんな人達なの? 性別は?」
「さあ? 金と銀のニ人組、歓楽街、正午、合流しろ、としか言われてねーよ」
「ま、あの方の言う事だからね……」
あれこれ質問するが、要領を得ない答えが帰って来るばかりだ。
歩いている内に歓楽街の入口に到着した。夜には賑わうのだろうが、まだ人通りは疎らだ。
「歓楽街だけど、どうする? 待つ? ちょっと移動してみる?」
「……待て、後7秒で丁度正午だ。3……2……1……0」
「きゃああああ!!!!」
懐中時計を見ながらアウインが『0』と言った瞬間、すぐ側で女性の悲鳴が響き渡った。
「!?」
声のした方を振り返ると、フードを目深に被ったニ人組が屈強な男ニ人に連れ去られそうになっている。
アルとアウインの行動は素早かった。早苗が振り返った時には、もう走り出していたのだ。
アウインは片方の男の首に勢い良くラリアットを決める。やられた男は、それは見事に吹っ飛んだ。走って勢いを付けたとは言え不自然なほどに。
「がふっ!!」
吹き飛ばされ地面が割れるほど背中をぶつけた男は、喉か内臓を損傷したのか口から血を吐いている。
一方アルはもうニ人の男の頭に回し蹴りを繰り出していた。よくあんなに高く足が上がるものだと感心する。
そしてなんと、その足には赤い炎を纏っていた。と言う事は、きっとアウインも同じように魔法を纏って攻撃したのだろう。
「ひぎああ!!!!」
髪に炎が燃え移った男は絶叫し、その場にゴロゴロと転がりもがいている。なかなかに残酷な技だ。
早苗はニ人の戦う様子を呆然と見ていたが、ふと視界の端にフードのニ人組が去って行く姿が映る。ハッとして追い掛け、ニ人の前に回り込み両手を広げた。
「ま、待ってください!!」
「なんだお前は!!?」
声からして女性のようだ。逃げようとするニ人を、早苗は必死に通せんぼする。
「そこを退け! 小僧め!」
「なっ?! 小僧じゃないし!」
「ええい! 退かんか!!」
シャッ!1人がナイフを取り出し斬りつけて来た。
「うわあっ!!?」
白いシャツがスパッと切れる。切れ味が良い。胸に鋭い痛みが走った。
「サナエ!!」
「きゃあ!?」
いつの間にか駆け付けて来たアルが、女の手のナイフを叩き落とす。
「俺達は敵じゃねぇ! 話を聞け!!」
アウインがニ人組に向かって怒鳴る。
「くっ……」
その剣幕にたじろいだニ人は動きを止めた。
「サナエ、大丈夫……?」
「う、うんっ、平気平気……」
早苗は青い顔で胸元を押さえている。シャツにはじわじわと赤いものが滲んで来た。
「血が……治してあげる、端に行こう」
「う、うん……」
傷の場所が場所だけに、人に見られないようにしたい。
「黒いの、そこの女共、囲め。黒いのは背を向けろよ」
彼は怒っているようだ。アウインとフードのニ人は、逆らえない空気につい従ってしまう。
「……手を離して、見せて?」
早苗の傷は、思ったより大きい。右胸から左胸にかけて、真っ直ぐに斬られている。
痛々しい傷に顔を歪めながら、アルは傷口に手を翳かざす。右から左へ、ゆっくりと手を移動させて行く。
「あ……凄い……痛くない……」
「………………」
アルは布で血を拭い、傷を確かめる。じっと見詰めたかと思うと、右胸をそっと指でなぞった。
「……っ」
「…………ごめん、傷、残った」
言われて、パッと自分の胸元を見る。一瞬分からなかったが、右胸の乳輪の上辺りに長さニセンチほどの薄い傷痕を見つけた。
「あ……なんだ、小さいし平気だよ」
笑って見せるが、彼は笑わない。
くるっと身体を反転させたアルは、ニ人組の一人からフード付のローブを強引に剥ぎ取った。
「きゃあ! 何をする!」
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